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反射的に朔を見上げると、いつも通りの顔で俺を見ていた。

「呼んでるけど」
「そうですね」
「行かなくていいのか?」
「そうですかね」
「兄さんに何も言わないで来たのかよ」
「そうではないですよ」

「会長ぉ、副会長なんかほっとけばいいじゃないですか〜。オレがいるんだし」
「ちょっと、離れなさい!」

なんだあれ。
兄貴を追いかけて来た、なんだか色々派手な野郎が、馴れ馴れしく兄貴の肩を抱き寄せてる。

「やめてっ! 朔、朔どこ!?」

うっわっ、兄貴のほっぺたに食い付きそうになってる!
何なんだあいつ!?

助けなきゃって思ったら、俺たちを囲っていた結界が消えた。
そのすぐ後に、俺の周りにだけ目隠しの結界が張られたけど、朔がため息をついてたような気がした。

勝手に結界を消して悪かったけど、どう見てもあれって兄貴のピンチじゃないか。

「朔!」
「副会長、いたんだぁ」

とは思ったものの、朔に抱きつく兄貴を見て、ちょっと微妙な気分になる。
三人は何だかんだ言いながら、俺から離れて行った。
朔の後ろ姿を見ているうちに、何とも言えない気分になってしまった。

げ、元気になったら朔のところに行こっかな。
……でも、消毒してって、自分から言うのか、俺。

あ、でもその前に、どうやって帰ればいいんだろう。




壁伝いに歩けばいけるか?
こっから部屋までどのくらい距離があるんだろう。
もう少ししたら、体も動くかな。

なんてしばらくうだうだ考えていたら、見覚えのある生徒が廊下を歩いてきた。
同じクラスのヤツだ。名前は確か、糺谷。
こいつもいつも一人でいるから、俺は勝手に親近感を持ってる。

「いるのか、鏡見。開東さんに言われて来た」
「朔に?」
「そこか」

そいつが俺の目の前まで来た。
よく見たら、糺谷の制服に式札がくっついている。これは朔が作ったものだ。
これのおかげで、ある程度近付いたら、結界越しでも俺の姿が見えるようになるらしい。

糺谷が結界に触れると、結界が糺谷を取り囲んだ。それと同時に、糺谷が身に付けていた朔の式札が消える。

「送る」

そう言った糺谷は、前髪がもっさりして野暮ったいイメージだったけど、近くでよく見れば一重のイケメンだった。
勝手に親近感を持ってすみませんでした。

「ありがとう。でも俺、今あんまり歩けないんだ」
「おぶされ」





「重いよな。本当にすまない」
「別に」
「朔とはどういう知り合いなんだ?」
「別に」
「そ、そうなんだ?」

か、会話が続かない。
ネタも尽きて黙ると、今度は糺谷が口を開いた。

「噂が流れてる」
「噂?」

俺の噂なら、たくさんあるよ。ぜんっぜん嬉しくない噂だけど。

「あんたが開東さんを会長から奪おうとしてるってな」
「またそっち系か。え、まさか、お前それで俺に腹立ててたの?」

朔から式札を預けられるくらいだし、こいつも朔たちに近い存在なら、俺を邪魔だって思ってるのかもしれない。

「腹は立てていない。いつも通りだ」
「そうなんだ」

良かった。むっつりしてるから、てっきり怒ってるんだと思ってた。
この学校で、普段通りに俺と接してくれるヤツは、かなり貴重な存在だと思う。

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