18「だが……」
俺を見下ろしていた風紀委員長が、急に顔をしかめた。
「くさいぞお前」
「はぁ!?」
なんだそりゃ! 匂いに敏感なお年頃かよ!?
「お前、マーキングされてるだろう。開東に」
「犬じゃないし……」
「犬の方がよっぽどマシだな。開東の厭味ったらしい匂いがプンプンしてるぞ」
ふん、と鼻で吐き捨てた風紀委員長は、さっきまでの獰猛な雰囲気はなくなっている。
だけど、ヤツは今だにまたがったままで、あろうことか俺のケツの辺りを撫で始めた。
「あいつに突っ込まれて女にされたのか?」
見た目は英国紳士風なのに、口から出てくるセリフは本当に下品だな。手つきは変態オヤジみたいだし。
くそっ、俺の体が戻ったら、絶対にこいつを蹴り倒す!
「純情そうな顔をして、男を知っているとはな」
「朔とは、そんなんじゃない」
俺が反論すると、ヤツはクスクスと笑いだした。
それからようやく俺から離れて、ベッドから降りる。
「そうか。なら開東は、どうしてお前を抱かないと思う?」
ベッドの脇に立って、風紀委員長が俺を見つめる。
俺は黙ったまま視線をそらした。
ちらりと見えたヤツの目が、また嫌な感じになってる。こんな時は、ヤツを見ない方がいい。
「お前にいいものを見せてやる」
そう言って、ヤツは手に取ったリモコンを操作した。
ベッドから見える位置にあった大きなテレビが映り、いきなり喘ぎ声が聞こえてきた。
『……ん、あぁっ』
エロビか!?
なんで今これなのかと疑問に思ったけど、次に聞こえてきた言葉に、心臓が飛び出そうになった。
『あうっ、朔ぅ』
「な、なに?」
「よく見てみろ」
見たくない、けど、確かめずにはいられない。
恐る恐る視線を動かしてみると、画面には綺麗な男が映っていた。切なそうに眉を寄せながら、酷く色っぽく喘いでいる。
その綺麗な男は、よく知っている顔だった。
実の兄の、こんな姿を見るのはものすごく複雑だ。
隠し撮りのように、斜め上から撮られているビデオ。
華奢な兄貴の下半身に顔を寄せているのは、よく顔は見えないけれど、誰なのかはすぐにわかった。
「言っただろう。結斗は身も心も開東のものだと」
兄貴の喘ぐ声が大きくなってきたが、風紀委員長がテレビの電源を切った。
俺は動きにくい体をゆっくりと起こして、背が高い風紀委員長を見上げる。冷たいブルーグレーの瞳が、俺を捉えた。
「結斗は体のこともあるし、開東は最後まで抱けないんじゃないか。だから、お前で性欲処理ってわけなんだろう」
「なんで、こんなビデオが」
「結斗だよ」
「兄さん……?」
ヤツの氷みたいな瞳から、冷たいものが俺に流れこんでくるような気がした。
「結斗はお前がいるから、開東が最後まで抱いてくれないのだと思ってる。これを俺に託したのは結斗だ」
「なにそれ、意味、わかんね」
「結斗は、お前が邪魔なんだよ」
心臓が冷たくなって、カチンッと凍ってしまった気がした。
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