16

理事長室から出た俺は、ひとまず教室に向かった。

お取り寄せやらなんやらの、美味しそうな菓子には心惹かれたけど、その誘惑に負けたら、今日一日は解放してもらえなかったかもしれない。

とはいっても、今は中途半端な時間だ。
授業は欠席扱いにはなっていないらしいけど、途中からでも参加しとくべきか、それとも、鎖の森の様子を見に行くか……。
犯人の手がかりは見つけられなくても、なにか探れないだろうか。

そんなことを考えながら校舎に向かって中庭を歩いてると、高社君並に可愛い子たちがそろって立っていた。
四人も。
なんていうか、目の保養?

「鏡見真緒だよね?」

先輩だろうその四人は、俺を見るなり居丈高に言い放った。

「そうですけど」
「マジ弱そうなんだけど、ホントに鏡見家なの?」
「やっぱり、分家出身て噂は本当なんじゃない?」
「それで開東様の気を引こうとしてるんだって?」
「会長様と開東様に割って入ろうとしても無駄なんだけど?」

息ぴったりな四人だな。
てか、結界に閉じ込められたし……。
たくさんしゃべってる間に詠唱してたのか。けっこう力のある先輩たちだ。

俺のまわりに一つと、さらに先輩たちを囲んでいる結界だ。
それに、香水でもつけていたのか、甘い匂いが漂っている。

「逃げようとしても無駄だよ。あんたにはこんな結界も破れないだろうけど」
「なんのつもりですか?」
「じっくり話しをしようと思って、邪魔が入んないようにしただけ」

じっくりって、一体どんな話をするつもりなんだ。態度がめちゃめちゃ挑戦的なんですけど。
本当に話しをするだけじゃ終わらないだろ、絶対。

「あんた、開東様に迷惑かけるのやめない?」
「そうそう。見苦しいよ。昨日だって、わざわざ悪鬼の前に飛び出したりしてさ」
「黙ってないで、なんか言ったら?」
「兄さんと朔の邪魔をするつもりはありません」
「本気で言ってんの?」
「笑わせないで」
「開東様に取り入って、何をするつもり?」
「開東様は会長様のもの。お二人の邪魔をするなら、容赦しないから」

先輩たちがすごい目で睨んでくる。
ひどい誤解もいいところだ。どうしてこんなことになってるんだろう。すごくめんどくさい。

けどなんか、だんだん息苦しくなってきたような気がしする。

「……っ、なにこれ」
「あんたの周りだけ、ちょっとした薬をまいてみたんだ」
「ようやく効いてきたね。ちょっとにぶいんじゃない?」
「ふ、はぁ、はぁ、薬……?」

じゃあ、呼吸しちゃダメじゃん。どんな薬なんだよ。
でももう無理。本気で苦しい。
息を吸っても足りなくて、大きく呼吸を繰り返した。

「……うぅ」

顔をしかめる俺を見て、先輩は楽しそうに笑った。
その笑顔は可愛いけど、すごく残酷だ。

「開東様じゃなくて、あんたにはあんたにお似合いのやつらがいるんだから」
「あんたたち、薬はもう大丈夫だから、結界の中に入っちゃいなよ」

周りに数人の気配が近づいて、緩んだ結界の中に入ってきた。

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