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無事に三匹の悪鬼を消滅させて、周りは明るい雰囲気になっていた。

そんな時、辺りの空気が張り詰めて、一瞬、耳鳴りかと思うようなものが聞こえた。
何か大きな結界が破れたんだ。
みんなもそれに気付いたらしく、動揺が広がる。

「やばい! 逃げろ!!」

誰かが叫んで、みんなが動きだした時、大きな影の塊が次々に現れた。
一つだけじゃない、四つ、いや、五つある。

影が近づく前に、先生たちが俺たちに守りの結界を張ってくれた。

「全員、結界を補強しなさい!」

先生に言われて、それぞれが詠唱を始める。
外では、退魔師が破れた結界を結び直すために森に向かい、他の退魔師は現れた悪鬼に向かっていた。

「なんで結界が破れたんだ?」
「強そうなのが来たけど、大丈夫だよね?」
「いざとなったら、俺たちも戦わなきゃまずいかもな」

さすがというべきか、場慣れしてる奴らが多いようで、大きなパニックになることもなかったけど、やっぱり不安はあるみたいだ。
さすがの高社君も静かになってしまっている。

黒い塊だった悪鬼が、家ほどもありそうな巨大な犬や、大きい昆虫みたいな姿を作り始めた。
奴らは結界に閉じ込めるにもてこずる相手だ。
退魔師たちだけでは追い付つかないとわかると、三年も数人討伐に加わっていた。

三年生が数人がかりでも手間取っている中、朔と風紀委員長は、二人で悪鬼を結界の中に縛ってしまった。
風紀委員長もなかなかの能力者だったらしい。朔ほどでもないけどな!

「会長様だ」

兄貴の姿を見付けたのか、高社君が結界のギリギリまで前に出て行く。
どんだけ兄貴が好きなんだよ。

兄貴は、朔たちの大きな結界に押し込まれた悪鬼に向かって、次々に九字を切っていた。
けど、悪鬼は一向に弱った様子を見せない。

兄貴が肩で息をし始めてる。
朔がいるから大丈夫だとは思うけど、なんだか不安になってきた。

「急々如律令!」

凜とした声が響いたけど、兄貴はそのまま片膝をついてしまった。

「会長様!!」
「あっ、おい、高社君!」

ぶっ倒れそうな兄貴を見た高社君が、結界を抜けて外へ駆け出してしまった。
俺も塞がる前に結界をすり抜けて、高社君を追う。

「駄目だ! 戻れ高社君!!」

そう叫んだ時、三年が対峙していた悪鬼が暴れだした。
つむじ風が起こる。
砂を含んだ旋風に巻き込まれる直前、俺の周りに結界が張られた。
結界から、朔の気配がする。

つむじ風をやり過ごして、すぐに高社君を探した。
強風で砂ぼこりが舞う中、数メートル先に高社君が倒れていた。

「高社君、大丈夫!?」
「うー、痛いィ」

結界の中にいる高社君に一先ず安心した矢先、高社君のそばに悪鬼が近づいていたのに気づいた。

「高社君!!」

巨大なカマイタチの姿をした悪鬼が、鋭く尖った両腕を振り上げたのを見て、俺は心臓が縮み上がるような気がした。
あの結界じゃダメだ。高社君がヤバい!

「止まれ!!」

カマイタチは両腕を振り上げたまま、ピタリと動きを止める。
俺は、固まったまま呆然としている高社君の前に飛び出して、カマイタチと対峙した。
新しい結界が、俺と高社君を包む。

大きな黒いカマイタチは、その両目だけが赤く光っていた。
体から放っている、黒くてまがまがしい邪気が、結界の中にいてもトゲみたいに刺さってくる感じがした。
高社君が、震えながら俺の背中にしがみつく。

「大地の沈黙 森の静寂 風の壁
──真緒様、存分にどうぞ」

朔の声が聞こえてたけど、俺はカマイタチの赤い目から視線を逸らさなかった。
高社君を傷つけてほしくない、それだけでいっぱいだった。

「お前はここにいるべきじゃない。消えるんだ」

カマイタチの体のあちこちから、粒々の小さな光が輝き始めた。

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