兄貴のもとへ急ぐ朔の後を俺も追いかけた。
やたら広い敷地内で、どこをどう走っているのかわからないまま目的地に到着した。

「結斗様はこちらで休まれています」

案内されたのは、やたら豪奢な保健室だった。
室内には立派なベッドがあって、その脇には濃いブロンドのキラキラした外国人がいた。ていうか、ベッドに向かって身を屈めていた。

「結斗様に触れるな」

朔が、外国人に向かって、物凄い殺気を放った。

「開東か、不粋だな。眠っている姫を起こすのは、王子様のキスしかないだろ」
「結斗様をゆっくり休ませて差し上げてください」

久しぶりに感じた朔の殺気に驚く俺をよそに、外国人は何でもないように喋っている。
何だか、ただ者じゃない感じ? 日本語も流暢だし。
もしかして、ベッドに寝てるのは兄貴で、この外国人が兄貴にキスをしようとしてたってこと?

俺がベッドに駆け寄ろうとすると、その外国人に阻まれた。

「誰だお前。大した力もない者が勝手に近づくな」

ブルーグレーの目が、冷ややに俺を見下ろした。
なんだこいつ、すげームカつくんだけど!! 身長も態度もな!

「あんたこそ誰ですか? 無断でキスをするようなほうこそ、兄に近づかないでほしいんだけど。兄はあんたみたいな夢見る王子様じゃないんで、軽々しくキスなんかしないんですがね」

外国人は、器用に方眉を上げた。

「開東、なんなんだこのクソ生意気な子猿は!」
「あなたは知らなくても結構ですよ」
「兄と言ったよな。結斗が言っていた弟とは、お前のことか!?」

信じられない、とばかりに首を振る外国人が信じられねえ!

「子猿って誰のことだ、セクハラ外国人!」
「真緒様、この外国人に決して話しかけてはなりませんよ」

朔が、俺と外国人の間に割り込んできた。そのおかげで、外国人と距離ができる。

「なんてことだ。こんなに可憐な結斗の弟がこれだとは。能力だって並み程度しか感じられない」
「真緒様を侮辱するな。夢見る王子様は、現実が見えていないようですね」
「いっそ夢だったらいいのに。ああ、結斗の夢の中へ飛んで行きたい」

なにやらショックを受けている外国人と、静かにエキサイトする朔をよそに、俺はそっと兄貴の顔を覗き込んだ。
ちょっと顔色が悪い。

眠っている兄貴は、今にも消えてしまいそうな風情で、確かに可憐と言う言葉が似合っている。

「開東、なぜ結斗から離れたんだ。いくら結斗の頼みだからって、そんなやつをわざわざ迎えに行く必要もなかっただろう」

そう言って、ひとつため息をついた外国人が、再び口を開いた。

「優先順位くらい考えろ。お前が大切にしないなら、結斗は俺がもらうが?」
「断る。結斗様をお守りするのは俺だ」

朔がきっぱりと断言した。
振り返ると外国人と対峙する、堂々とした朔の背中があって、そんな後ろ姿を見ながら、俺の心臓はぎゅっと絞られたように感じた。

さっきまで、朔の態度がいつも通りだったから忘れていた。
今の朔は、兄貴を一番に考えなきゃならない立場だし、朔もそう心に決めているみたいだ。
その事実を、はっきりと目の前に突き付けられてしまった気がする。

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