「でも、一番の理由は、君が鏡見一族だからだろうね。今はみんな君の様子を見てるんじゃない?」
「様子見って、みんなずいぶん警戒心が強いんだな」
「君は大したことなさそうだけど、鏡見家と下手に関わって、目を付けられたくないんだろうね。会長様や開東様からも嫌われたくないだろうし」
「うわー」

それって、考え過ぎなんじゃないか?
うちってそこまで交友関係に煩い一族でもなかったと思うんだけど。
それとも、呪術師同士だと、何かしがらみみたいなもんでもあるのだろうか。
めんどくせえなホント。





授業が早く終わったから、やたらと広い学校内を散策することにした。
一人で。
だって、部屋に帰っても一人だし、遊ぶヤツもいないし……。

暇潰しに地図を見ながらぶらぶら歩いてたら、会いたくもない野郎と出くわしてしまった。

「開東は生徒会室だ、子猿」
「子猿って誰のことだ!? 変態王子!」

ムカつく外国人だ。
……こいつの名前って、なんだっけ。

「子猿が一人で彷徨っていると通報があったんだ」
「別に迷ってるわけじゃないけど」

つうか、誰だよそんな通報したの。
そう言えば、こいつって入学式の時に、風紀とかなんとかって紹介されてなかったか?

「弱っちょろい外部入学生が、一人でフラフラするな」
「はあ」

気のない返事が気に食わなかったのか、外国人がぎろりと睨んできた。

でも、通報した人は心配してくれたからなんだろうし、こいつも仕事だからわざわざ来たんだろうな。

「なんか、すみませんでした」

俺が謝ると、外国人は意外そうな顔をした。
俺が謝ったのに驚いたのか。つくづく失礼だな!

「とにかく、いくら探したって開東はいない。まあ、どうせ自室にも帰ってこないだろうしな」
「別に朔を探してたわけじゃないんだけど。でも、帰ってこないって、どうして?」
「あいつはな、結斗の部屋に住んでいやがるんだ!」
「ああ、そうなんだ」

体も弱いし、兄貴と一緒にいた方がいろいろと都合がいいんだろうな。
って、分かっていても、なんだかおもしろくない。
四六時中、朝も昼も夜も二人はずっと一緒ってことなんだよな。

ふと、遣る瀬ない気分になっていると、外国人が怒り心頭ってな感じで騒ぎだした。

「何を納得しているんだ! 可愛い結斗とあいつが同棲だなんて、許されるわけがないだろう」
「ど、同棲って……」
「いいか? 朝はお早ようのキスで目覚め、美味しい朝食を互いに食べさせ合い、手を取り合って登校する。ランチも庭で美しい緑に囲われながら、美しい結斗も独り占め。放課後は生徒会という共同作業をこなし、再び手を取り合って下校する。夕食は互いの想いを語り合いながら愛を育て、そうして盛り上がったまま裸になって二人で入浴タイム。さらにそこで愛を育みながらベッドに移動して明けない夜を迎えるんだ」
「……すごい、妄想。てか、あんたの願望?」

危うく、兄貴と朔で想像しそうになって、あわてて打ち消した。

「ふん、俺と結斗の近い将来の話だ」
「きもっ! ぜったいに阻止する!!」
「子猿ごときに何が出来る」
「朔だって許すはずないだろ」
「だろうね。だが、」

そう言って、ブルーグレーの瞳が、俺を見据えた。
冬の湖を連想させる目に、ぞくり、と寒気がする。

「すぐに俺が奪うさ。今の結斗は開東のものだ。心も体もね」
「心も体も、って……」

なぜか瞳を反らせない。
体の芯から冷えてくるような気がして、嫌な感じに体が震えそうになる。

「そのままの意味だ」

そのままの意味って。
どういうこと? こいつの冗談だよな?

「結斗と開東は、周知の関係だぞ」

本当に……?
囁くように言われた言葉に、体が凍えるように冷たくなった。

「あんた、それ違……」
「あんたではない。お前には、特別にアベルと呼ぶことを許そう。呼んでみろ」
「アベル……」

ブルーグレーの目が、満足そうに微笑んだような気がした。

アベルが、長い指で俺の顎を持ち上げる。
目の前にある顔が、ずいぶん綺麗だったことに気が付いた。そのアベルの顔がどんどん近づいてくるけど、凍ってしまったみたいに、俺の体は全く動かなかった。

[ 6/37 ]


[mokuji]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -