時々、朔は俺に会いに来てくれたけど、結局は俺と離れて鏡見家へと帰ってしまう。それがすごく悔しかった。

でも、今日からは兄貴とも、朔とも同じ場所で生活できる。学校の寮だから家とは違うけど、それでも頑張って修行した甲斐があったってものだ。
一緒にいた方が、もしかしたら、朔を守役から解放する手立ても見つけられるかもしれないって、ひそかに期待してたりもする。

「今日はお迎えに行けず、申し訳ありませんでした」
「別に、あそこまで来てくれたんだからいいよ。兄さんの具合が悪かったんだろ。もう大丈夫なの?」
「はい、結斗様のお加減もだいぶ良くなりました」
「ホント? 親父に朔を使うなっていわれたよ。久しぶりに会ったってのにさ、感動も何もない感じだった」

面倒だったけど、挨拶しなきゃならないから会いに行ったのに、親父は兄貴のことばっかりだった。
体が弱いのも姿形も母さん似の兄貴のことが心底心配なのはわかるけど、久しぶりに会う息子に対して、他に言うことはなかったのかって思う。
能力も頭もみそっかすな俺に、期待していないのは百も承知だけど。

「織人様は、安心されたのではないですか? 元気が一番の取り柄である真緒様が、相変わらず元気なご様子だったので」
「どーせそれしか取り柄はありませんよ」

朔は、しれっとした顔で、平気で失礼なことを言ったりする。

「織人様は照れていらっしゃったんですよ。たいへん可愛らしく、健康に成長された真緒様とご対面されて、内心ではとても喜ばれたと思いますよ」
「ッ、可愛らしいって、それ嬉しくないって!!」

ジュースにむせそうになって慌てた。
こいつ、本当は楽しんでやってるんじゃないの?
朔って、本当にたちが悪いと思う。



◇◇◇



とにかく、俺が入学する高校はもの凄かった。

悪鬼退治の特別授業なんかもあって、能力者を確保したい政府が、色々と支援しているらしい。
それに、色んな流派の退治屋一族の縁者が通うから、寄付金なんかも桁違いなんだろう。
今まで普通の公立中学に通ってたから、その差に愕然としてしまった。

車の中で、朔から学校について色々と聞いてたけど、つくづくすごい学校だったらしい。
学校だけじゃなく、通う生徒だってそうだ。能力者の派閥みたいなものがあるとか、強い生徒は必然的にスクールカーストの上位になるとか。

あとは、男ばっかりの世界だから、男同士でくっつくこともよくあるらしい。
朔は、俺にも気を付けろと口を酸っぱくして何度も忠告してきた。そんな心配は無用だと思ったけど、この朔やあの兄貴なら、もしかしたら色んな目に合ったと思うから、黙ってうなずいておいた。

そんなわけで、俺は立派な造りの学校をボケッと見回しながら歩いていたんだけど、さっきからビシビシと視線を感じてる。
数いる新入生うちの一人である俺に、他の生徒からの興味なんかあるはずないから、一緒に歩いてる朔が視線を引き付けていたんだろう。朔は見た目だけじゃなく、能力も高いから、嫌でも注目されるのかもしれない。

注目の的になっている当の朔の方は、なんにも感じてませんてな様子で、完全にいつも通りだった。日常的過ぎて、慣れちゃったんだろう。
俺はというと、寮の部屋に入るまで、まったく落ち着けなかった。




寮の部屋は、クリーニングされていたみたいで、前にいた人の気配は感じられない。荷物でも片付けようとしたら、朔にその必要はないと言われてしまった。

「先に到着していた真緒様のお荷物は、すべて仕舞ってあるので、後ほど確認してください」
「えっ! 朔がやってくれたの?」
「はい。真緒様に任せると、終わりが来ないと思いまして」
「はあ? どういう意味だよ」
「冗談です。真緒様のものを他人に触らせるわけにはいきませんから」

それってどんな貴重品!? っていうか、どこまでが冗談なわけ?
いやでも、えらく真面目くさった態度の朔に突っ込んでも、ろくな回答はもらえないのは分かってる。

「俺、一人でも終わらせられるし」

一応文句だけは言っておいて、俺は室内探険をする事にした。
リビングを中心にした、幾つかのドアを開けて見て回る。

「あれ?」

部屋を見て、俺は思わず声を上げてしまった。

「どうかしましたか?」
「ベッドが一つしかないけど、一年の部屋割りって、原則二人以上じゃなかったっけ?」

部屋数の問題もあるんだろうけど、生徒同士の絆的なものを深めたり、他人との共同生活で社会性を身に付けるような目的があったはず。

「生徒数の関係でしょう。他人と同じ空間で、真緒様が生活することにならなくて、本当に良かったです」
「そう、なのか? まあ、うん、そうかもな」

考えてみれば、まだ俺の力も不安定な部分があるから、一人部屋の方が助かる部分が大きい。
一瞬、朔が何かしたのかと思ったけど、一介の生徒でしかない朔に、寮の部屋分けには口出しできるはずないもんな。

そんなことを考えていると、スマホを見た朔が難しい
顔をした。

「どうかした?」
「結斗様が、お倒れになったとの連絡です」
「えっ!?」

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