ごく普通の駅のターミナルに、滑らかな動きで入ってきた高級車。その車は、ちらほらとまわりの視線を集めていた。

ドアが開いて、中から降りてきた長身を見て、俺の顔は意志に反して勝手に緩む。
つい一ヶ月前に会ったばかりだったけど、この日が待ち遠しかっただけに、嬉しさが抑えきれないのかもしれない。

テレビから出てきたみたいな、やたら見た目のいい高校生。あいつがこっちに向かって歩いてるだけで、なんてことない普通の駅が、一瞬で華やいだような気がする。
現に、通りすがりの人たちが、こっそり振り返ってあいつのことを見てたりするし。

俺は、自分の制服姿を見下ろした。同じ制服を着ているというのに、どうしてこうも違うのだろう。
俺はと言うと、身長は平均はあるものの、筋肉が付きにくいせいでひょろく見える。そのせいで、頼りない感じに見られるのが嫌だった。

再び顔を上げると、あいつと目が合ってしまった。
無感情にも見えていた目が、俺を見て柔らかくなったとたん、何とも言えない気分になって、そっぽを向いた。






乗せられたのは、じいちゃん自慢の軽トラ、TJ200よりも、遥かに静かで乗り心地がいい車だった。
隣にいるあいつ、開東 朔が、長い足を楽にさせられるくらいに広々としている。

「お疲れでしょう。真緒様」

そう言いながら、朔は車内に設置してある冷蔵庫からジュースを取り出して、俺に手渡した。
ビン入りのリンゴの炭酸ジュースは、俺が好きなものだ。

高校三年生にしては、ずいぶん大人びている朔は、黙っているとすごく冷たい印象だった。感情を映さない黒い目に、細い鼻と引き結ばれた神経質そうな薄い唇が、余計に酷薄そうにも見えるけど、顔全体が整っているから、かなりモテる。

そんな朔のことを一番最初に見つけたのは、幼い頃の俺だった。
朔は力が強かったから、鏡見家で引き取ることになって、子どもの時はずっと一緒にいた。
俺はそんなつもりはなかったけど、立場的に朔は俺の守役、つまり、俺に何かあった場合、盾にならなきゃならない存在だったんだ。

そんな守役ってのが存在するのは、俺の生家が日本屈指の退治屋一家だったからだ。
呪術で悪鬼を倒すことを生業とする、鏡見一族の本家次男として生まれた俺は、物心ついた頃から悪鬼と戦う術を身に付けさせられていた。

悪鬼はどこにでも現れて、人々を襲う。
今では特別な森に集まるように仕掛けられているけど、まだ日常生活の中に出現してしまうことがあった。
鉄砲や爆弾なんかは効かない。でも、人間が生まれながらに持っている力であれば、悪鬼を倒すことができる。

悪鬼を使役する者や討伐する者。そんな力を持った者たちは、次第にその地位を上げていった。力が弱かったり、持っていない人たちにとって、力の強い者は絶対になくてはならない存在だからだ。

鏡見一族もそうだ。
代々強い力を持つ鏡見一族は、人々から崇敬される一族だった。
けど、俺は本家に生まれたくせに、いまいち自分の力をうまく扱えないでいた。だから修行と言う名目で、小五の頃から母方の田舎に預けられていた。

そこに朔を連れて行くことをためらった。守役が、ただの遊び相手じゃなかったってことがわかった俺は、朔を盾代わりにしたくなかったからだ。

けれど、俺があれこれ考えているうちに、朔が俺から離れることが勝手に決められていた。
優秀だった朔は、これまた優秀な俺の兄貴のお付きになって、一緒に私立中学へ行くことになったのだ。

兄貴は力は強いけど、体が弱い。だから、強力なサポーターが必要だった。
結果的には、朔の立場は変わっていないことになる。

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