嵐がやってきた(2)


こっちに向かって来る変態王子を見て、ベリアルJr.が目を眇た。
相変わらず凶悪な表情だ。

「面倒な。表六玉、あんななまくら王子まで手懐けたのか?」
「手懐けた覚えは全くない!」

そんな僕の訴えをフンッと鼻で吹き飛ばしたベリアルJr.は、あろうことか、気を失っていたラブリイちゃんを空中へ放り投げてしまった。

「わっ! ラブリイちゃん!!」

慌てて宙を飛ぶラブリイちゃんを追いかける。
けれど、僕が飛び上がった途端、後ろから強い力で羽交い締めにされてしまった。

犯人はベリアルJr.だ。
ぞわぞわっと、密着した背中から悪寒が走るからよくわかる。
その間に、ラブリイちゃんは変態王子の両腕の中に落下してしまった。

よりによって何てことだっ! ラブリイちゃんが変態に捕われてしまった……!

「ラブリイちゃん!!」
「大人しくしていろ」

後ろから耳元で囁かれて、本格的にぞぞぞっとする。
あまりの悪寒に言葉を無くしていると、変態王子がこちらに向かって叫んだ。

「貴様、マイハニーエンジェルを放せ!!」

誰がマイハニーエンジェルだっ!

「お前こそラブリイちゃんから離れろ!」
「嫉妬かっマイハニーエンジェル! 嫉妬なのか!?」
「おまえーっ、顔を赤らめるんじゃない!! 勘違いするな!」
「恥ずかしがらずともよいのだぞ。……確かに、こちらの姫も可憐だが」
「うわーっ、ラブリイちゃんのお尻を撫でるな変態!!」

鼻の下を伸ばしながら、変態王子が未だにグッタリしたままのラブリイちゃんのお尻を撫でている。
何てうらやましいんだ、変態王子め! やりたい放題ではないかっ!!

「尻ならこちらの方がいいぞ、なまくら王子」

そんなことを言い出したベリアルJr.が、何を思ったのか僕のお尻をサワサワと撫で始める。

「何するんだよっ」

痴漢だ……! ベリアルJr.、こいつは本当にどうしようもない野郎だ。
こんな奴に好き勝手されるんじゃなくて、僕はラブリイちゃんをやりたい放題にしたいのだ!!

「逃れようとしても無駄だ、表六玉。何故ならば貴様が表六玉だからだ」
「ば、ばかにして……! 僕は表六玉なんかじゃないんだからな!!」

こうなったら、ビリビリ攻撃を仕掛けてやる。流石のベリアルJr.だっていちころのはずだ。

「ビリビリビリビリ!」

渾身の一撃をお見舞いしてやった。
だけど、ベリアルJr.はびくともしない。それどころかフフフと笑った。非常に恐ろしい笑い方で、嫌な予感がする。

「な、なんで効かない!? ……うはぁっ!?」

かっ、体がビリビリし始めた!
何故だ! どうして僕の方がビリビリするんだ!?

全身がビリビリ痺れて、体から力が抜けて行く。落ちそうになったが、ベリアルJr.の腕に支えられた。
なんたる屈辱……!

「貴様! マイハニーエンジェルに何をした!?」
「この俺に攻撃を仕掛けるなど、よほどお仕置きをしてもらいたいようだな。そこのなまくら王子もしっかり見ておけ」

片手で僕を抱えながら、ベリアルJr.が呪文を唱えた。すると、僕の制服の上着が、瞬時に消え去ってしまったではないか。

「ひょえぇぇっ」

ち、ちくびが丸出しじゃないかーっ!
おのれっ、ベリアルJr.め!! なぜラブリイちゃんにその魔法を使わなかったんだ!!

「ふん、相も変わらず貧相だな」
「うるさい、って触るな!! うひゃぁん!」
「マイハニーエンジェル……!!」

変態王子が鼻から血を噴き出した。

「王子、大丈夫ですか!! くそ、あいつはおかしな術を使うぞ」
「ううっ、マイハニーエンジェル……」

王子の護衛達がベリアルJr.を攻撃してくるが、バリアでことごとく跳ね返されている。
そんなまわりにはお構い無しに、ベリアルJr.は僕のちくびを攻撃してきた。
大きな手を広げて、二つのちくびを一度にグリグリしてくる。恐るべし、ベリアルJr.……!

「表六玉、ここを誰に弄られた? 桃色の処女臭い乳首だったはずだが、今日はずいぶんと赤く熟れているじゃないか」
「ひぅっ、あっあっ、ちくびダメッ」

ベリアルJr.がちくびをグリグリしながら低い声で囁いた。
変態王子とにっくきヒイロに弄られたなんて、プライドにかけて絶対に口にしないんだからな!



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