「名前、俺の猫耳を確実に消す方法は一つしかないみたいだよ」

携帯を切った氷室は困りきったような表情を浮かべたが、頭上では真っ白な猫耳がピコピコと動いていた。


「氷室先輩…消す方法って何ですか?」

「タイガが言うには、」

隣に座り耳元に囁かれた言葉の意味を脳内で反芻すること三十秒。
想像だにしていなかった方法を聞いて名前はボン!と音が出たかと錯覚する位にみるみる顔が真っ赤になっていた。


「えっ…!?無理です無理無理!」

「…俺を助けると思って、協力して欲しいんだけどな、名前に」

艶やかな視線を向けられてドキドキしてしまうが、そんな簡単に了承出来る内容では無い。
付き合い始めてから半年経ちキスはしたがその先はまだ怖くて、そんな雰囲気になると全力で拒否してきた。
氷室は焦るでもなく強引に迫る訳でもなく何時でも仕方ないな、と優しく安心させるような笑みを見せてくれたのだが、今回は簡単に引く様子が見えなくて不安になる。


「私…、その、まだ、」

「名前が怖がっているのは知ってる。でも今回はかなりイレギュラーな状況なんだ」

バスケの師匠であるアレックスから譲り受けたサプリを飲んだら猫耳と尻尾が生えた。
そんな漫画みたいな展開に普段はクールな氷室も動揺…しているようには余り見えないが、月曜から学校があるので猫耳は流石にマズいだろう。あと、尻尾も。


「それに猫耳と尻尾が…その、エッチしたら無くなるなんて」

「嘘じゃないよ、ほら」

火神の彼女が写メった猫耳&尻尾ビフォアアフターを氷室は見せてきた。


「……」

「だから、ね?」

「いやいや、無理!」

ソファーの隅っこに追い詰められて着痩せする広い胸を押しても、簡単に両手首をやんわりと拘束されている。


「そんなに怖がらないで」

悲しそうに下げられた眉毛や声色は酷く切なく胸を突いて名前は戸惑ってしまう。


「俺とじゃ、イヤなのかな?」

「イヤって言うか…」

「イヤじゃないなら、名前からキスしてくれる?」

「え、」

ただでさえ混乱しているのに、そんなハードル上げないで下さいと涙目になっていた。


「名前が大切だから、イヤがるコトはしたくない」

「氷室先輩…」

「無理矢理なんて言語道断だしね。名前がどうしてもイヤなら俺は猫耳が消えるまで学校を休むよ」

このままじゃバスケも出来ないし長引くようなら、アメリカに戻るかも知れない。
独り言めいた言葉を静かに紡がれて名前は慌てて氷室を見上げる。


「アメリカに帰るなんて言わないで下さい。私、氷室先輩と離れたくない、です」

「俺もだよ、名前」

「あの…目を瞑って下さい」

意を決して氷室の綺麗な顔に近付き、遠慮がちに触れるだけのキスをしていた。


「ありがとう」

ニコリと爽やかな笑顔を見せて名前の頬を慈しむように優しく撫でると、そっと抱き寄せた肩に頭を乗せる。


「猫耳だなんて本当に困ったけど、これもきっかけの一つだしね」

「…ん、」

耳たぶに吐息がかかり身を捩るが、閉じ込められた腕の中では余り意味がなかった。


「こんなチャンスをくれた神様に感謝しなくちゃ」

スルスルと真っ白な尻尾を名前の腕に巻き付かせて、氷室は目蓋から頬っぺた、最終的にゆっくりと唇にキスを落としてゆく。
もしかして氷室先輩、確信犯かも。
脳裏の片隅に思い浮かべたが既に彼の思惑通りにコトは進んでいる。
チロリと熱い舌先で唇をなぞられて、反射的に開いた隙間から侵入してきた舌に口内を甘やかに蹂躙されて、余計な思考は遮断しようと決めた。


「…ベッドに行こうか」

氷室の色っぽい瞳や泣き黒子が緊張のせいか霞んで見えて小さく頷くと、ひょいっとお姫様抱っこされる。
寝室のドアが閉まる音さえも遠く感じて、全て託すように逞しい胸元に名前は顔を埋めていた。





20130227

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