「ちょ、痛いっスよ!名前先輩、引っ張らないで!」

「え、何これ。本物?」

「……にゃあ」

涙目で頭に生えた蜂蜜色の猫耳をピコピコと動かしながら黄瀬は答えていた。







「にゃあとか言うな!ふざけんな、尻尾まで生えてんじゃん!」

「ひっ!痛い痛い痛いにゃん!」

むきゅ、と猫耳と同じ色の尻尾を引っ張ると、そのふわふわな感触は本物だ。


「さっき火神っちから貰ったサプリ飲んだら、生えたみたいっス」

「バカ黄瀬のことだから、猫耳プレイしたいっス!とか考えてコスプレしたのかと思ったよ」

「いやいや、どうせなら名前先輩に猫耳付けて欲しいし!あ、ちょっとトイレ借ります!」

おお、イケメンモデルも普通にトイレに行くのかと変に感動していると、ドタドタと興奮気味で部屋に黄瀬が戻って来る。


「朗報っス!下半身は何時も通りに立派なまんまでした!」

「知らねーよ!自分で立派言うなボケ」

「がふっ!」

ピースサインを見せるアホな後輩に思い切りクッションを投げつけた。


「酷いっスよ。安心させようと思ったのに」

「猫耳と尻尾が生えたままで安心出来るかアホ」

並んでソファーに座り頭を捻るも良い解決案が浮かぶ訳もない。


「そうだ、火神っちに電話してみよ。…あ、火神っちー?うん、オレオレ。なんかさ貰ったサプリ飲んだら猫耳が……ちょ、ヒドッ!切られた!」

「なんか言ってた?」

「勝手に猫耳プレイしてろって怒られた」

サプリを渡した火神もこの効果(?)は知らなかったらしい。


「どうしよ、これから。こんなんじゃ学校行けないしバスケ出来ないし。…名前先輩、オレを飼ってくれる?」

「断る。場所取るし餌代掛かるしウザいし」

「オレを見捨てないで!」

せんぱーい!にゃーにゃー!と涙ぐんで抱き着いてくるデカい身体は猫体温なのか、何時も以上に熱く感じた。


「…なんスか?」

「黄瀬と初めて会った日を思い出した」

昼休みにクラスメイトの笠松と一緒に空き教室の前を通りかかった時、中から制服の乱れた金髪が飛び出して来たのだ。


「か、笠松先輩!名前先輩も、助けて!」

涙目の黄瀬は告白された女子にキスされそうになり、断ったにも関わらずに押し倒されて逃げたらしい。


「いやー、あの情けない顔は忘れらんない」

「…オレ、必死だったんスよ」

笠松に会いに行った教室で名前に一目惚れをしてから、ずっと話すチャンスを狙っていた。
だが残念ながら、初めて話せたのは女子に襲われかけた直後、みたいな。


「告白聞きながら、これが名前先輩だったらなー。なんて考えてたら女の子に顔を押さえられて、慌てたのなんの」

ファーストキスを死守しながら脳裏には試合時のベンチからの掛け声「ディーフェンス!ディーフェンス!」が駆け巡っていた。
無事に逃げ切った時には「いいぞいいぞ黄瀬!」の掛け声も聞こえた気がしたのは懐かしい思い出だ。


「まぁとにかく、無事にオレの唇は純潔を守れたっス」

「え、純潔ってなに」

「いやだから、オレのファーストキスは名前先輩に捧げたし」

「え、え、ええっ!?」

初耳だとばかりにまじまじと見つめると恥ずかしそうに俯く黄瀬。


「あ、えーと…。名前先輩、オレが童貞とか、ドン引きしてる?」

「うん…いや、ドン引きっていうか、ビックリした」

あの笠松だって既に卒業してるっていうのに。校内一のモテ男が童貞って!


「それに…黄瀬、キス上手いから、さ」

まさか童貞だなんて思いもしなかった。


「え…そっスか?多分それは名前先輩がすげー好きとか、気持ち良くしてあげたいとか、そんなオレの気持ちが伝わってんじゃないスか?」

なんだコイツ可愛いな!
ファッション誌じゃエロい表情したり、練習や試合中に見せる真剣な顔は滅茶苦茶にカッコいい癖に。
名前には情けない顔やヘタレなとこばっかり見せるけど、そのギャップが堪らないと思ってしまう。


「黄瀬、猫耳が消えるまで私が飼ってあげるから」

「え…、うわぁっ!」

よしよし、と猫耳の後ろを撫でるとビクリ!と大袈裟な程に黄瀬の身体が揺れていた。


「な、何?」

「いや、なんか。耳の後ろ、すげーくすぐったいけど…気持ち良くて、って!そこもくすぐったい!」

顎下をこちょこちょすると身を捩りながらもゴロゴロとご機嫌な猫が喉を鳴らす音が聞こえる。
うっとりして目を細める黄瀬の表情は情事中を想像させて、名前は不覚にもドキドキと胸が高鳴っていた。


「ヤバいよ、黄瀬。その顔は反則」

「え、キモかった?」

「違うよ、その反対」

訳がわからないと小首を傾げる仕草さえも、猫耳効果も有って母性本能をくすぐられる。


「なんて言うか、その…。凄いそそられ、ちゃった」

「え…、それって。今日はオッケーって事っスか?」

「うん」

今まで、ねだりにねだってやっと実現した初のお家デートで、まさかの彼女からのGOサイン。
だがしかし。


「初体験が猫耳付きって、有りっスかね?」

「いやなら、いいけど」

「いやいやいや!いやな訳ないんで!」

「黄瀬、落ち着いて」

「この状況でオレもオレの息子っちも落ち着いてらんないし」

「ね、黄瀬。キスして?」

まずはキスからと唇に触れて通常通りに舌を侵入させると、名前はさっきの黄瀬並みにビクリ!と肩を震わせた。
舌まで猫仕様らしくザラザラな感触が顎上や舌の裏を這いずり回って、恥ずかしい位に敏感過ぎる反応をしてしまう。
キスだけで腰砕けになった頃に耳裏をベロリと舐められれば、生暖かいザラついた舌のせいでやはり凄い快感に襲われてギブアップしそうだった。


「名前先輩。今までの男みんな忘れる位、気持ちよくしてあげる」

にゃんこになって、にゃんにゃん。
それでは涼太、イきまーす!

そんな意気込みは完全に空回りして、ゴムを装着したと同時に出ちゃったのは二人だけの秘密。
無我夢中で全てが終わった頃には「しつこいし、ねちっこい」と名前先輩に怒られたけど、猫耳と尻尾は無くなっていました、まる


20130224

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