トイレに行った帰りに鏡に映った自分を見て火神は違和感を感じた。
ピコピコ。
頭上に何故か動物の黒い耳が生えていて、指先を動かすのと同様に自在に動かせる。
「うおおっ!?犬の呪いか?」
苦手な犬を避けてきたが虐めるなんて事も無く、テツヤ二号との出会いにより、以前よりは触れあっているはずだ。
そうだ俺は犬の怒りを買うような真似は断じてしていない、だったらなんでこんな耳が生えているのか。
うんうん唸っていると先ほど氷室から貰ったサプリを飲んだのを思い出した。
帰国時から放置していた荷物に入っていたから分けてあげるよと渡され、量が多かったので黒子と黄瀬にもあげたのだ。
(タツヤはこうなるのを知っていたのか?)
師匠のアレックスとグルになって火神を罠にはめたとか、むしろ面白がるとか…。
「いや、俺はあいつを信じるぜ」
「ねー火神、お腹くだしたの?」
「うわああああーっ!!」
ひょっこりと名前が洗面所に現れると、俊敏な動きで耳を両手で隠してしゃがみ込んでいた。
「え、火神、それって」
「は?な、なんだよ」
ギリで隠したと思っていたが名前は、じっと火神を真顔で見つめている。
「火神に尻尾が生えてる!」
「え、」
思わず立ち上がると確かに背後からパタパタと微かな音がして、黒白のしましま尻尾がお尻から伸びていた。
「なんだこりゃ!?」
「や、猫耳まで生えてる!可愛い!」
尻尾に気を取られてうっかり両手を降ろせば、頭に生えた耳までバレてしまっている。
しどろもどろながらも名前に事情を説明すると、取り敢えず氷室に聞いてみればと言われた。
「…圏外だ」
こんな時に何処に居るんだと苛立つが、ふとサプリをあげた黒子が頭に浮かぶ。
「あ、もしもし。黒子、サプリ飲んだか?そうだよ、なんか変な耳が…え、おい、切るな!」
「黒子君も猫耳生えてたって?」
「ああ…」
「それで、なんで切られたの?」
「あー、それは、だな。自分でなんとかするつもりらしい」
「元に戻す方法があるのかな」
「知らねーよ」
名前に「猫耳プレイ」だなんて単語を言えなくて、ムッツリと眉をしかめる。
「火神…なんか黒子君に言われたんじゃないの?」
「言われてねーし」
「嘘!」
冷や汗をかきながらソファーにドサッと腰を降ろして頭を抱えると、携帯が鳴り出し待ってました!と出てみれば氷室ではなく黄瀬からの着信。
「知らねーよ!勝手に猫耳プレイやってろ!」
「……」
怒りに任せて放った失言に気付き、口を手で押さえても時既に遅し。
「あ、いや…、今のはだな」
「黄瀬君って、そういう性癖があったんだ。確かに変態臭いけど。もしかして、黒子君も?」
「……」
俺は何を口走ったんだとガシガシ頭をかきながら、みるみる赤くなる火神を見つめる名前。
「えい、」
「に゙ゃ!?」
「やだ…火神の癖に可愛いんだけど。「に゙ゃ」だってー」
「バカ、耳に触んな!くすぐってぇだろうが」
猫耳をディフェンスしながら警戒して見上げると、名前は益々図に乗ったような笑みを浮かべていた。
「火神の猫化、意外に可愛いよ。安心して」
「なんも安心出来ねぇよ!」
「あ、メール受信してるよ。黒子君からだ…『火神君、猫耳プレイ、プライスレス』だって。それから『PS.にゃんにゃんしたら、猫耳も尻尾も消えて何だか寂しいです』」
「勝手に見るな!」
携帯を奪うと持っていた名前の身体がバランスを失い、よろりと火神の膝にのし掛かっていた。
「ね、火神」
「…んだよ」
「その猫耳を消す方法、」
「黒子はたまたまだったかも、だろ。俺は絶対にイヤだからな」
「じゃあ、どうすんの?猫耳付けて学校行ってバスケすんの?バカデカい男のキモいコスプレふざけんなって、きっと日向先輩にドン引きされるよ?」
「う…、それは、」
「だったら、ね?可愛い彼女が協力してあげるからさ、感謝してよ」
「名前、やけに楽しそうだな」
「こんなレアな火神とエッチ出来るチャンスないし」
「……」
「それに私、猫好きなんだよね」
「に゙ゃああっ!?」
「ふふっ。尻尾の付け根、気持ち良いんでしょ?」
「バ…バカ、止め、」
「あ、喉ゴロゴロ鳴ってる。可愛いーたまんない」
名前にすりすりと擦り寄られて甘い香りに包まれて、柔らかな膨らみを制服越しに感じると火神の中で何かが弾け飛ぶ。
「…っ。どうなっても…、知らないからな?」
「きゃーっ!火神タイガーがその気になったー」
「名前、マジでもう黙ってろ」
コトが済んだ頃に氷室さんからかかってきた電話に、しどろもどろで説明する火神君が最高に可愛いかった!と名前さんはのろけていました。
彼女の協力のおかげで猫耳も尻尾も消えましたが、どちらがにゃんにゃん鳴かされたのかは、火神君は教えてくれませんでした。けちですね。
黒子の後日談より
雄の本能(こればっかりは仕方ない)
20130225
[ prev / next ]