恋だの愛だの君の声だの 黄瀬お手製のクリームリゾットを一緒に食べてから玄関まで見送りドアを閉める。 今日は色々な出来事があり過ぎたせいか、ソファーに寝転ぶと直ぐに眠くなっていた。 (藍田さんが好き、大好き) 黄瀬の告白が鼓膜の向こうでリフレインして頬に熱が集まり、それを振り払うようにグリグリとクッションに顔を埋める。 彼の優しさにちゃんと応えたいと思いながら眠りに落ちていった。 大きな手が璃乙の頭を不器用に撫でたかと思うと、そのまま目元を指先がなぞり涙を拭われたのだと気付き目を覚ます。 (藍田さん、泣かないで。…好き…、大好き) 重たい目蓋を少しだけ開くと、そんな事を囁く黄瀬が泣きそうな顔をしていた。 濡れた目蓋にキスを落とされて安堵感に包まれ、再び目を瞑れば逞しい胸元に抱き寄せられる。 (今日は朝まで一緒にいてくれるんだ) でもなんで私は裸で一緒に居るのが、やっぱり裸の黄瀬君なんだろう。 変だけど、凄く安心出来て温かい。 身体の中心に春の陽射しが降り注ぐような、そして心が甘やかに満たされるような。 確かに黄瀬の金髪や琥珀色の瞳は太陽を思わせる。 そう思ったところでパチリと璃乙は目を覚ましていた。 今のは夢で、今度こそ本当に覚醒したらしく、カーテンの隙間から射し込む朝日をぼんやり見ながら、ソファーの上で身体を起こす。 (今のは…、夢?) やけにリアルで黄瀬が戻って来たのかと考えたが、璃乙は服を着たままだし側には誰も居ない。 じゃあ今のは…?と頭を捻ると、もしやあの夜の掠れた記憶なのではと思い付く。 あの日の朝、黄瀬が璃乙に好きだと言ってくれていたのを知り、嬉しく感じていた。 白戸お得意のセックス後の惰性で垂れ流した安っぽい言葉などではなく、彼の本当の純粋な気持ちだと今なら信じられる。 白戸が朝まで一緒に居てくれた事は無く彼の前で泣くのは我慢したし、昨日みたいに不満を口にして怒りを露に、怒鳴り散らすなんてのも有り得なかった。 泣いたり怒ったり不満を言ったり、そんな当たり前の事を我慢していなかったら、何か二人の仲は変わったのだろうか。 大人の白戸の前で聞き分けの良い子を演じていた気がする。 元々強がりで甘え下手で今までの彼氏にも、素直に甘える事が出来なかった。 それなのに黄瀬の前では友達だとはいえ、みっともないところばかり見せていて、璃乙の何処を好きになってくれたのか、全く解らなかった。 料理も苦手だし素直じゃないし不倫していたし、酔っ払って黄瀬の童貞を奪ったし…そこまで考えてガクリと項垂れる。 私、どんだけダメな大人? 専門学校を出てから憧れていたファッション業界に入り、毎日多忙で自分より年上の人達に囲まれて働いてきた。 黄瀬だって学校の授業にバスケ、そしてモデルの仕事では同じように年上のプロに囲まれている。 にも関わらずに璃乙を心配して、優しく接してくれた。 「てか、パーフェクト過ぎでしょ」 見た目も勿論、バスケもモデルもこなして、璃乙への細やかな気遣い。 四十過ぎて所帯持ちの癖に不倫して若いモデルを孕ます、しょーもない白戸と比べてハイスペック過ぎだ。 敢えて言えば童貞だったのはマイナスかも知れないが、まだ高一だし別に遅い方ではない。 きっと更にイイ男になるのは間違いないし、緋川の言っていたのはこの事だろう。 本当に童貞だったのかよ、とぶつぶつ言いながらテレビを点けると「もうすぐバレンタインデー!」のニュースばかり。 職場で義理チョコ配るの面倒臭いなとウンザリしながら、番組お勧めのチョコレートをチェックする自分がいた。 今って友チョコの方が盛り上がるんだよな、と思う傍らで黄瀬の顔が思い浮かぶ。 奴は学校でも仕事場でも沢山チョコ貰うに違いない、と考えた途端に舌打ちをする自分に嫌気が差し、コーヒーを飲もうかと立ち上がっていた。 20130309 |