愛しいとおもうすべての熱 テスト期間中は仕事を休んでいた黄瀬と久しぶりに撮影で顔を合わせると、なんだか元気がないことに璃乙は気付いた。 何時も着替えさせているので、触れた肌から高熱だと直ぐに解り問い詰めてみれば「バレたか」と苦笑している。 「インフルエンザじゃないし、薬飲んだから大丈夫」 「でも身体、凄い熱いじゃない。病院行った方が良いよ」 「オレ、絶対に仕事に穴空けない主義だし、撮影も完璧にこなすんで」 だから止めないで欲しいと言われてしまい、メイクして貰う黄瀬を背後から苦々しく見ていた。 撮影が始まると宣言通りに高熱を感じさせない、魅力的な表情で様々なポーズを見せる。 控え室に戻って椅子に座りミネラルウォーターを飲むと、気が抜けたのか黄瀬は放心状態でぐったりと脱力していた。 メイクを落とすと熱があるのに色白なので顔色が酷く悪い。 「マジでヤバいかも…オレ」 「これから一緒に病院行こう」 「え、」 「早く着替えて」 衣装を剥ぎ取ると「きゃー藍田さんのえっち!」なんてふざけていたが、着替え終えれば大人しく従い駐車場へ向かう。 病院で測ると体温は39度に迫っており解熱剤を打ってから、点滴を受けると多少顔色が良くなった気がした。 帰り道に助手席に深く座っていた黄瀬は伏し目がちで口を開く。 「あのさ…。藍田さんの風邪が移った訳じゃないんで。自分の体調管理不足だから気にしないで。今日ずっと藍田さん、怖い顔してるっスよ」 言われるまでもなく確かに自分のせいだと罪悪感があった。 「でも、私のせいでしょ多少は。ごめん」 「だから気にし過ぎ。あやまんないで」 「家まで送るね」 「ん…、着いたら起こして」 そう言って直ぐに寝てしまったのは点滴の効果もあるが、やはり疲れていたのだろう。バスケ優先とはいえ練習に勉強やテスト、更に撮影と多忙な日々が続いていたのだから。 大人びてはいるが寝顔は年相応というか、少しだけ幼く見える。 すやすや眠る黄瀬を置いて途中コンビニでポカリやレトルトのお粥を買ってから車を走らせた。 「黄瀬君、着いたよ」 「はいっス…。なんで藍田さんまで降りるんスか?」 「心配だから、一緒に部屋まで行くよ」 「いや、大丈夫…」 と言った途端に座り込む黄瀬に驚き隣にしゃがむと、「やべ、貧血?」と呟いている。 私につかまれと言って立たせるが190センチ近い身体を支えるのは困難で、情けなくもよろけていた。 「藍田さん、ちっさい」 「うるさい、ほら歩ける?」 肩に腕を回させてよろよろ歩き出すと黄瀬も何とか着いて来る。 部屋に到着するまでに璃乙は何度も潰れそうになったが、何とか玄関口に座らせた。 「ありがとう、藍田さん」 「ほら、ベッドに行こう」 「ん…」 触れた身体が酷く熱くて心配で仕方ない。 「はー…やっぱ自分のベッドは安心するー」 「こら、ちゃんと着替えなさい」 「もう寝る」 「だめだってば」 試験休みの為か今日は私服で撮影に来たらしくピーコートを無理矢理脱がせてから、買い物袋を玄関に取りに行き戻るとちゃんとパジャマに着替えていた。 一気にポカリを飲み干すのを見るとかなり脱水症状気味だったようだ。 「もう寝ていいよ」 「ん…」 もぞもぞと布団に潜る黄瀬を見ていると、携帯が鳴りバッグに手を無造作に突っ込んだ。 着信は白戸からで出るか躊躇しているとギュッと空いた手を握られる。 「藍田さん。オレが眠るまででいいから…側にいてよ」 熱のせいか潤んだ瞳で甘えるように璃乙の手に頬を擦り付ける仕草に迂闊にも胸が高鳴ってしまった。 携帯を開くと黄瀬は泣きそうな表情になったが構わずに話し出す。 「はい…。あー、今日は無理です。じゃあ、また」 簡潔に誘いを断り携帯をバッグに放り込むとベッドの中では、泣きそうだった顔に弱々しくも笑みが浮かんでいた。 「行かなくていいんスか?」 「黄瀬君が泣きそうだから」 「泣かないっスよ!」 「はいはい」 ムキになっているのが可愛くて頭を撫でてやれば、不満気に唇を尖らせている。 「オレ、子供じゃないんスけど」 「こないだは黄瀬君が私の頭を撫でてくれたじゃん。これって、凄く安心出来るよね」 そう言うと小さく頷く姿は子供みたいだが、絶対に怒りそうなので口にはしない。 「藍田さんの手、冷たくて気持ちいい」 「あ、冷えピタ買うの忘れてた。ちょっと待ってて」 「いいから、ここにいて」 「でも、」 「お願い」 うとうとしながらも璃乙が離れるのが嫌なのか、閉じそうな目蓋と格闘しているようで、クスッと笑ってしまった。 「なんで笑うんスか」 「黄瀬君は、寂しがり屋さんなんだなって思って」 「そんなんじゃ、なくて…。藍田さんに…側にいて…欲しいだけ、」 眠りに落ちる瞬間に握られていた璃乙の手に黄瀬の唇が押しあてられて、ドキリと心臓が跳ねる。 寝顔まで綺麗で安らかな寝息を聞きながら、何時しか自分まで眠気に襲われていた。 20130210 |