ふつふつと沸騰しているチョコレートの海原へ、フォークに刺したマシュマロをちゃぽんと沈める。


「名前ちん、早くー。あーん」

「はい、あっくん。熱いから、ちゃんとふーふーしてね」

律儀にふーふーと息を吹き掛ける紫原の、長めの前髪がふわりと揺れていた。


「ん…、美味しー」

次はポテチね、と雛みたいに口を開く姿を見ればまるで餌付けしている気分だ。
バレンタインデーはチョコフォンデュがしたい!と紫原にねだられたのだが、美味しーを連呼するのを聞けば名前まで頬が緩んでいた。


「あっくんが食べるとこを見るの好き。私まで幸せな気分になるよ」

「じゃあ名前ちんは毎日幸せじゃん。俺のおかげで」

当たり前みたいにそう言ってから次はバナナが食べたいし、と甘えるように小首を傾げる。
デカイ図体でも口調や仕草がやけに可愛いらしくて、しかも年下なので名前はキュンキュンしていた。


「ね、この溶けたチョコレート、あの映画のみたいだよね」

「ああ…。チャー○ーとチョコレート工場、だっけ」

「そ、川を流れるのがチョコレートでさ。俺、あれ見てからチョコレートフォンデュしたかったの」

かなり規模は小さいが確かに蕩けた生クリーム入りのチョコレートは香りも魅力的だ。


「じゃあ最終的には二人で飲もっか」

「うん。あ、俺も食べさせたげる」

「え、」

「名前ちん、何が良い?」

「……イチゴ」

あーんして貰うなんて恥ずかしいが、これもバレンタインというイベントに乗っかり、バカップル丸出しな事をしてやる!と覚悟を決めて答えた。


「はい、あーん」

「あー…熱っ!」

「あはは、間抜け面。ウケるー」

羞恥心から冷ますのを忘れていて、唇にチョコレートまみれのイチゴが触れた途端にその熱さに驚く。


「あっくんのバカ」

「ふーふーしないからだし」

涙目で睨み付けるもヘラヘラと笑われて益々腹立たしいと思えば、身体に比べて小さめな紫原の顔が隣からズイッと近寄っていた。
ペロッと唇の端に付いていたチョコを舐められて、ピクッと肩を揺らす。


「んー、名前ちんのチョコフォンデュが一番美味しいかも」

ヘラリと笑われても怒る気になれない程の無邪気な顔や発言に黙り込んだ。


「あららー、嫌だった?」

「嫌じゃない、けど」

「じゃあ、もっかいしちゃおっと」

ちゅ、と今度は普通にキスをされて目蓋を閉じる暇もない。


「やっぱ名前ちんは甘いね。もう俺、名前ちんをチョコレートまみれにして食べちゃいたい」

「あっくん、何言って…」

「んん?ちょっとやらしかったー?でも本当にそう思ったし」

拗ねたような表情さえも可愛いく思えるのは惚れた弱味か。なんだこのバカデカイ癖に可愛い生き物はと心中で一人愚痴る。


「名前ちん、抱っこしたげる」

ひょいっと膝の上に横抱きされて頭をぐりぐりと擦り付けられると、恥ずかしさよりも愛しさが増して小さな頭を撫でてやった。


「えへへ、ありがと。ね、名前ちん、クッキー食べたい」

「はいはい」

やはり食欲かとクッキーを手に取りチョコレートに浸してから差し出した。
モグモグと咀嚼してから名前の手を握ると「チョコ付いてるよ」と紫原は躊躇なく指先を口に含んでしまう。


「や、ちょ、」

長い舌が絡みつく感触がやけに性的で見下ろす視線はトロンとしているのに、獲物を捕らえた野獣みたいな強い光を秘めていた。


「このまま名前ちん、食べちゃおっと」

「あっく……んぅっ」

指先を解放されたと思えば有無を言わさずに唇を塞がれて、バスケ部のジャージを握る手から力が抜けてゆく。
「いただきまーす」と悪戯っぽい声が鼓膜を震わせた気がしたが、もう名前はチョコレートの香りと紫原の体温しか感じる事が出来ずにいた。


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20130201


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