最近やけに幼なじみの緑間が冷たいと名前は不満に思っていた。


「あー、今日俺、チョコ貰えっかなー」

「私からの義理チョコをお母さんに見せて安心させなよ和君。だからチョコ代を払え」

「義理チョコとか、いらねーし!」

昼休みに高尾と絡んでいると緑間はムスッとした表情で席から立ち上がり、本日のラッキーアイテムらしき子供用のピアノを脇に挟み教室から出て行く。


「なにあれ。緑間、感じ悪いんだけど」

「あーあ。真ちゃんからすれば感じ悪いのは名前でしょ」

「何でよ」

「てか、そのカバンの中のチョコは本命チョコ?」

「見るなハゲ」

ハゲてねーよ!とムキになる高尾を無視して、名前は緑間の後を追う。
最近は部屋にも入れてくれないし会話も減る一方で危機感があった。
奴は地味にモテるし、もしかしたら好きな女の子が出来たのかも知れない。

だとしても昔から好きだったのだから、ムカつくがバレンタインデーをきっかけにハッキリさせたかった。
お弁当を食べた後はお汁粉で一服するのは知っていたので、迷わずに部室を目指せば案の定緑間はベンチに背筋を伸ばして座っている。


「緑間」

「何だ、名前」

「話があるんだけど」

口調も態度も喧嘩腰で目の前まで近寄り、黒縁眼鏡を素早く奪った。
変わり者だが美形だし、ちゃんと目を見て話せる自信がなかったのだ。


「何をする、返せ」

「そっち、ロッカーだから。ねえ、なんで最近、冷たいの?」

「…解らないのか?」

「解んないから聞いてんの。和君と話してても五月蝿いって顔してるし、どっかに行っちゃうし」

「だからお前は駄目なのだよ」

「駄目言うな」

はぁ、と溜め息を吐いて緑間は眼鏡を早く返せと大きな手を伸ばす。


「ちゃんと答えたら返してあげる」

「お前と高尾がイチャイチャしているのを見ていたくない。そんな簡単なことが解らないのか」

「いや、イチャイチャしてないし」

「馬鹿同士で気が合うようだし、周りもそう思っている」

「馬鹿言うな。てかそっち、タオル掛けだから」

明後日の方向へ話している緑間にツッコミつつ、期待に胸を高鳴らせて更に近寄った。


「あのさ…、それって。嫉妬してたってこと?」

「フン、違うのだよ」

「それ、狸の置物だから。ね、ハッキリ言ってよ」

ガッチリした肩に手を置いて、裸眼の緑間を真っ直ぐに見つめる。


「俺に何を言わせたい」

「言いたくなかったけど、今日はバレンタインデーだし、緑間に好きな女の子が居るならハッキリ聞きたくてっ」

「泣いているのか?馬鹿が」

スルリと頬を撫でる長い指先で涙を掬われて、感情が抑えきれない。


「…好きな女なら、ずっと昔から居る」

「え、知らなかった」

「そいつは馬鹿だし鈍感でチャラ男とイチャイチャするし、しかも幼なじみという面倒な垣根が邪魔をしていたからな」

「え、え、え?」

「名前、何故…高尾を名前で呼ぶ?」

「えと、高尾が名前で呼べって言うから」

「お前は高尾が付き合おうと言えば付き合うのか?」

「いやいや、無理!だって私が好きなのは、」

緑間だ、と言いそうになった唇をテーピングした左手で塞がれる。


「こういうのは男から言わせろ。俺が好きなのは名前、お前だ」

中学後半から急に名前から苗字で呼ぶようになった名前が距離を取りたくなったのかと思っていた、と呟かれてブンブンと頭を横に振ると涙の粒が緑間の綺麗な顔に飛んでいた。


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