「先月はボクの誕生日をスルーされたので、バレンタインも期待していなかったんです」

「知ってたけど、私、」

「はい、その理由もカントクから聞いてました。でもちょっと悔しいので意地悪しちゃいました。すみません」

黒子の意外なSっぽさには驚いたがキュンとしてしまった自分もいて、私ヤバいかもとちょっと焦っていた。


「あと…せっかく素敵なブックカバーを頂きましたが。ボク、実は殆どの本を売ってしまったんです」

部屋の本棚はガラガラです、と呟きスルリと名前の頭のカチューシャに触れる。


「でも…どうしてもこのカチューシャを名前先輩にプレゼントしたかったので後悔はしていません」

「私もあのブックカバーを黒子君にあげたくて…髪を切ったようなものなの」

髪を切った経緯を話すと黒子はパチクリと瞬きをしてからクスクスと笑い出した。


「名前先輩は髪を売った訳ではないですけど、ボク達まるで賢者の贈り物の夫婦みたいですね」

「シバの女王が羨むような、みたいな?」

「はい。そしてソロモン王が妬むような宝物を売って、互いに相手に似合うプレゼントを贈り合う。そんな愛情って素晴らしいですよね」

「うん。私もあのお話、大好き」

子供の頃に感動したO・ヘンリーの短編のように何時か、大好きな人の喜ぶプレゼントを贈りたいと夢見ていたのだ。


「名前先輩」

「ん?」

「ボク、こんなに誰かを愛しく思えるのは生まれて初めてです」

「…私もだよ」

ぎゅっと抱き締められて思ったよりも広い黒子の背中に腕を伸ばす。


「名前先輩、お願いが二つあります」

「なーに?」

「これからはボクを名前で呼んで欲しいんです。それと…キスしても良いですか?」

「うん…テツヤ君、良いよ」

初めて名前で呼ぶと黒子は嬉しそうに微笑み、優しく名前の唇を指先でなぞってからキスを落としていた。


「ボクって欲張りですね。さっきまでは名前先輩からチョコレートが貰えたら、キス出来たらなんて考えていたのに」

「……?」

意味が解らずに首を傾げると照れたように再び名前を黒子は抱き寄せる。


「名前先輩の全てをボクのものにしたいです」

「…テツヤ君」

「今すぐここで、なんて意味じゃないですよ?」

何の準備もしていないので、なんて囁かれてしまい真っ赤になっているであろう顔を隠そうと胸に押し当てた。


「あ、でも…。ボク、誕生日を祝って貰っていないので、やっぱりプレゼントは名前先輩でお願いします」

「もうっ、テツヤ君のバカ!」

先月末はインフルエンザで寝込んでいてリコから黒子の誕生日を聞いても、何も出来なかったのだから許して欲しい。


「まぁ、冗談ではないですけど。今日は予約だけしておきますね」

名前の目蓋、そして唇にもキスをして満足そうな笑みを見せる。
草食系だと思っていた黒子の新たな面を知り気持ちが通じ合ったのは嬉しいが、少し複雑な気分のバレンタインだった、とリコに話したのが黒子にバレてお仕置きされたのは、また別のお話。



使


I send my special love to you.


20130202


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