小さな頭が乗っている肩からなまえの温もりやシャンプーの香りが伝わってくる。 いつの間にか火神の肩を枕にして何とも幸せそうに居眠りをしていて、起こすのは可哀想だと動きを最小限に抑えていた。 (ガキみてーな寝顔しやがって) ふ、と笑みを浮かべてしまう程に安心しきった顔を横目で見て睫毛長いな、顔小せーな、……唇柔らかそうだな、なんて思っていると正面に座っているサラリーマンの視線に気付き目を反らす。 それなりに乗客のいる電車内でなまえの初めて見る寝顔を満喫したいところではあるが、この寝顔は他の乗客にも丸見えな事は問題だ。 (帽子なんてねーし、どうやって隠せば……) 空いた手でエナメルバッグを漁ると黒子に貰った豆絞りの手拭いが丸まっていたが、これを頭から被せてやればどうだろうか。 (いや、ぜってー怒られるな) 頭に豆絞りの手拭いを被るセーラー服の女子高生は怪し過ぎるし、盗撮されて勝手に呟かれても困る。 火神の手で覆おうという作戦もあるがそれではなまえを起こしてしまうに違いない。 最近は受験勉強で睡眠不足らしいので、今はゆっくりと眠らせてあげたい……のは本当の気持ちだが寝顔をまだ見ていたいのも本音だ。 リコのクラスメイトのなまえに片思いをしてから季節は何度も変わり、この恋心は何時になれば伝える事が出来るのかと溜め息を吐き出していた。 「……好き、だ」 無意識に唇から放たれた言葉にわたわたと慌てて周りを見回すと、幸いにも乗客は近くにいないし彼女も未だ夢の世界にいる。 1度口にしてしまうとなまえへの想いが溢れてきて、切なさに胸が痛くなるのはまるで甘い病に冒された気がしていた。 「ん……。火神、くん……」 寝言にビクッ!と体を震わせれば起こしてしまい、 寝起きのなまえにぼんやりと見上げられる。 「お、起きたのかよ、です」 「なんで火神君、汗かいてるの?あ、暖房強いもんねー」 ずっと片思いしている相手が寝言でも自分の名前を呼んでくれたら嬉しいに決まっている、とは言えずに額を手の甲で拭いていた。 「ごめんね、肩を枕にしちゃって」 「構わないっす、よ」 「あのね今、夢見てたの。火神君の」 「え」 「私、夢の中でも火神君の隣で寝てて、それで、」 「……それで?」 思わずゴクリ、と生唾を呑んでしまい平静を保ちながらも先を促すとプッ!と彼女は吹き出していて唖然とする。 「その続きは、火神君から聞きたいなー?」 「は?」 「夢の中で言ってくれたじゃない」 「……」 「同時に耳元からも同じ言葉が聞こえて、それで私が答えてから目が覚めたんだから」 「オレ、降りる、」 「まだ降りる駅じゃないでしょ」 「……」 「あれ、言ってくれないの?」 「何をだよ」 「私が受験勉強を頑張れるような、愛の告白」 「っ!アホか!」 「この何ヵ月も熱い視線を送られていたのは気のせい?……最初は睨まれてるのかと思ってたけど。ね、あんなに何度も目が合うなんて不思議じゃなかった?」 じっと見つめられて自分の視線がバレていたのは恥ずかしいが、確かに何度も2人の視線は合っていたのを思い出す。 夢うんぬん言っているが自分は彼女の夢でも告白をしていたらしいし、今の会話から鈍い火神にも解る事があり覚悟を決めて深呼吸していた。 「あー……。なまえ先輩、さっきみたく目ぇ瞑ってくれ……、です」 「え、まさかキスするつもり?」 「ばっ!ちげーよ!そりゃ、出来るもんなら、って!今のなし!」 「冗談だよ、はいどうぞ」 ぽふっと火神の肩に先程の居眠り姿を再現するなまえのつむじを見ながら、緊張気味に口を開いた。 「なまえ先輩が好きだ」 「……火神君、私も。好き」 パチリと目を開いたなまえに照れたような笑みで応えて貰えると飛び上がりたい程の喜びに包まれる。 夢の中でも同じように答えたんだよ?と言われて電車の中にも関わらずに我慢出来ずに、ぎゅうっと細い身体を抱き寄せて苦しい!と文句を言われても離す気は全く無かった。 title:さよならの惑星 20140103 |