すぅすぅ、と小さく規則正しい寝息を間近に感じながら黄瀬はチラリと自分の肩に凭れるなまえの寝顔を盗み見てみた。
初めて見る寝顔は年上なのにちょっぴり幼くて、でも薄く開いたさくらんぼみたいな唇は自分の理性を奪いそうな程に魅惑的だった。

ラッシュアワーを過ぎたこの時間帯の電車内は人もまばらで、しかも居眠りしているなまえとの距離が酷く近くて心臓が痛くなる。
電車に乗った当初の会話はそこそこ弾んでいて、学年が違い中々話す機会がないので浮かれていたのに、眠くなるくらいに黄瀬の話はつまらなかったのだろうか。

それにしても座席のシート下は何故こんなに熱くなるのか何時も冬場は不思議に思うが、これが彼女を眠りの世界へ誘った理由だったら不愉快だ。
というか黄瀬はズボンだから問題ないが彼女はスカートとハイソックスで熱くないのかと心配になる。
ハッと気付けば程好い肉付きのなまえのふくらはぎを見つめていて、慌てて目を反らした瞬間に隣から微かな声が漏れていた。


「黄瀬君、……」

本当に小さな声だったので語尾までは聞き取れなかったものの、寝言とはいえ自分の名前を呼ばれた事が嬉しくて堪らない。
ガタン、と大きく車体が揺れるとなまえはパチリと大きな瞳を開き、黄瀬を見上げ何故か頬を赤らめていた。
車内は確かに暖房がきいているが動揺しているらしく視線を忙しなくさ迷わせている。


「え、あの……私、寝てた?ごめんね。しかも黄瀬君の肩に、」

「構わないっスよ。なまえ先輩、受験勉強で疲れてるんじゃないスか?」

「そうかも」

「ね、なまえ先輩。今、寝言言ってた」

「え、本当に?」

「「黄瀬君、好き」って」

「嘘!夢の中で言ったのに、」

「え」

「え」

そうだったら良いのにと思って冗談混じりに言ったのに、先程は聞き取れなかった内容の真相を知ってしまい今度は黄瀬まで頬っぺたが熱くなってきた。


「や、あの、私っ……。降りなきゃ、」

「なまえ先輩、降りる駅まだ先っスよ?」

やんわりと腕を引っ張り再び隣に座らせると、いたたまれないのかなまえはうつ向き長い髪がハラリと前に流れる。
その髪をかけてやった耳まで赤くなっていて、どれだけ恥ずかしがっているのかが解ってしまった。


「なまえ先輩、耳たぶまで赤くなってて可愛い」

耳元に呟くとビクリと面白いくらいに体を揺らす様子まで愛しくて、もっと意地悪したくなったが今は確かめなければならない事がある。


「ね、どんな夢を見てたんスか?」

「……」

「すげーシチュエーションとか気になる」

「……」

黙りこむなまえの肩にぽすんと頭を乗せるとすぅ、と深呼吸してから口を開いた。


「先輩、オレも」

「……何が?」

「オレもなまえ先輩が好き」

「!」

「本当は先輩が志望校に受かってから言うつもりだったけど。ずっとずっと、好きだった」

柄にもなく緊張して声が掠れてしまったが、なんとか気持ちを伝える事が出来て息を吐き出すと隣から「うん、ありがと」と返してくれてハッピーな気分で満たされてゆく。
なまえ先輩に桜が咲きますように、と頬っぺたにキスを落とすと、みるみる真っ赤になるのも可愛いくて優しく抱き寄せていた。



title:さよならの惑星
20140103

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