「室ちん、どうしよう」

眠そうな眼は普段通りでも眉毛は困ったように八の字に下がった紫原が2年の教室にのそりと入って来た。


「なまえちんが喋ってくんないの」

「アツシが何かしたんじゃないのかい?」

「別に。いつも通りだし」

つまり普段通りに無邪気に素直になまえに毒を吐いたに違いないと氷室は確信していた。紫原の前の席のなまえとは何度か話した事があるが、年の割りに大人びた、しっかりとした女の子だったのを思い浮かべる。もうちょい色気が出てきたら食べ頃かも、なんて不謹慎な事を考えていると肩を突っつかれていた。


「聞いてんの?ねえ、オレどうしよう」

「アツシはなまえさんとどうしたいのかな?」

「そんなん……いつもみたく話したいだけだし」

朝から完全に彼女から無視されてしまい、随分と凹んでいる様子は珍しいし何だか可愛くて、これはお節介を焼くしかないかと腰を上げていた。



▽ ▽ ▽




「だって、アツシ君がっ」

「落ち着いて、なまえさん」

放課後の部活前に当の本人に探りを入れるとみるみる大きな目に涙を浮かべてしまい、優しく頭を撫でてやるとゆっくりと話を続けてくれた。


「アツシ君が背の高い女の子が好きだって聞いたけど、今から伸ばすのは無理だから、せめて痩せれば少しはスラリと見えるかなって、」

「……健気で可愛いね」

「え。あの、えと……ありがとうございます」

「アツシの為にダイエットだなんて。別になまえさんは痩せる必要はないと思うけど。日本の女の子は皆、細過ぎるよ」

「でも。いっつもアツシ君は私にバカとかブスとかデブとか言ってくるんです。酷くないですか?昨日だって頑張ってダイエットしてるのに、太った?って聞いてきやがったんですよ!」

大人びて見えてもお年頃の普通の女の子なんだな、そしてアツシは素直に物を言い過ぎだと呆れてしまう。


「ところでなまえさん。いつもは黒のカーディガンだよね?」

「はい。昨日からは姉に貰ったこれを着てますけど」

胸元にブランドのワンポイントの入った白いカーディガンを両手を広げて見せながらも、何故そんな事を聞くのかと不思議そうに小首を傾げている。


「ああ、成る程。白は黒よりも膨張してみえるし、だからアツシもそんな事を言ったんじゃないかな?」

「……そうなのかなぁ」

そうであって欲しいと考えているのか、口元に手を当てて考え込むなまえは中々に魅力的に見えていた。


「ね、なまえさん」

「は?え、ちょ、」

気付けば真っ白な頬っぺたに氷室は手を伸ばし、ニコリと温和な笑みを浮かべている。


「君はとてもチャーミングだよ。アツシもなまえさんだから色々と暴言を吐けるんだと思う。甘えているというか、」

多分いや間違いないなく紫原は彼女を好きなのだろう。その表現が小学生みたいに好きな子を苛める的な幼稚なものだとしても。


「チャーミング、とか。そんなの初めて言われました」

あ、あと5分あればこの子を落とせそう。なーんて邪念を抱いていると2人の前に大男が現れていた。


「ちょっと。室ちんでも気安くなまえちんに触るの許さねーし。てか口説かないでよ、アメリカン女たらし」

「Oh……Sorry.それにしてもアツシ、女たらしは酷いな」

「アツシ君。氷室さんは私の話を聞いてくれてたの」

「なに。室ちんに触られてその気になってたでしょ?」

「なっ、なってない!大体、アツシ君が無神経だから!」

「無神経とかじゃねーし。なまえちんだからブスとか言ってんじゃん」

「ブスって言うな。私の事、嫌いなんでしょ」

「だーかーらー!マジなブスにブスって言う訳ないじゃん!」

怒りモードからテンパりモードへ変わったのか、紫原は長めの髪をかき上げて一応言葉を選んでいるようだ。


「えっと……。なまえちんをブスなんて思ったことねーし、むしろ逆だし。だから……わかれよバカ!そんで室ちんにデレデレすんな!」

「訳わかんないけど、わかっちゃった」

やはりなまえの方が大人なようで、紫原の伝えたい事は理解出来たらしい。


「でも、ちゃんと言ってくれないと許さない」

「バカじゃないの。オレ別にそんなん言いに来たんじゃねーし」

完全に紫原の彼女への気持ちは暴かれているが、意地っ張りなのに加えて氷室への嫉妬から益々意固地になっていた。


「アツシが言えないなら、オレがなまえさんを貰っちゃうけど良い?」

ちょっと本気で挑発すれば単純な彼はグッと息を呑んだ後に氷室を睨んでくる。


「室ちんになまえちんはあげないから、絶対に。先に部活行ってて」

「私も氷室さんと一緒に行こうかな」

「久しぶりにバスケ部の練習を見に来て欲しいな」

「ふざけんなー!これからちゃんと言うから、なまえちん行っちゃダメ!」

2人タッグの挑発に乗せられてなまえを背後からハグする紫原は告白の覚悟を決めるしかなかった。その後めでたく付き合うようになっても氷室への警戒心はハンパなかったとか。


なみのさんneta thx!
title:さよならの惑星 20140427


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