「お前……みゆみゆに似てんな」

「あー、たまに言われる、かな」

宮地に片想いしてから3年目、初めて交わした会話はそんな内容だった。友達と見に行ったバスケ部の練習風景で汗を流し黙々とトレーニングに励む姿に、金髪でヤンキーかと勝手に勘違いしていた自分を悔やむ程に感動したのも懐かしい思い出だ。

1、2年生では同じクラスになれず、当時はバスケ部のレギュラーではなかったものの、成績優秀で長身イケメンの宮地はモテモテだった。話す機会もなく自分が努力して近付かなければ!と決心して最初にしたこと、それは芸能人物真似メイクで有名なブログの研究だった。

宮地と言えばみゆみゆ。それは校内でも有名で告白されても「俺、今はバスケとみゆみゆに集中したいんで」と断るのはどうかと思う。3年生になり初めて同じクラスになりまさかの宮地の隣の席をゲットした日も、なまえはみゆみゆ風メイクだった。マスクをしていたのだが、みゆみゆファンの宮地は直ぐに気付いてくれたのだ。

ずっと恋焦がれてきた宮地との会話は最初はぎこちなかったが、段々打ち解けるうちに口の悪さや仏頂面から笑顔に変わった時のギャップにも惹かれてしまい、益々好きになってしまった。今現在では女子生徒の中では1番仲の良い友達になり、その先の展開には残念ながら進んでいない。


「みょうじ、寝癖ついてんぞ」

「寝坊したから」

「お前……メイクしなくても良くね?」

「なんかメイクしないと落ち着かないし」

みゆみゆメイクをしている間だけは魔法にかかったように、少し自分に自信を持って彼に向き合えるのだ。ノーメイクの今日は宮地と目を合わせるのも恥ずかしく感じていた。


「なんで目を反らすんだよ、ふざけんなチビ」

「チビって言うな見た目ヤンキー野郎」

「口悪いな、お前は。ったく、メイクすればみゆみゆに似てんのに、」

「……。私、みゆみゆじゃないもん」

いつもよりネガティブ率の高い(当社比)今日は、そんな事を言われただけで涙ぐむ程に心が折れてしまう。


「それにあのメイク、ナチュラルに見えて凄く大変なんだから!ばか!宮地のばーか!」

「みょうじ」

「……なに」

ふいに真顔になった宮地の顔はやっぱりカッコ良くて迂闊にもドキリと胸が高鳴っていた。


「俺を嫌いになっても、みゆみゆは嫌いにならないでくれ」

「みゆみゆはどうでもいいけど、宮地を嫌いになれるわけないじゃん!」

下らない事を言われてつい本音を漏らしてしまいヤバい、と焦っていると目の前の宮地はニヤリと口元を吊り上げている。


「知ってる」

「え」

「お前がなんでみゆみゆのメイク真似してんのかなんて、馬鹿でもわかんだろ」

「な、なに言ってんの」

「みゆみゆはみゆみゆで、みょうじはみょうじで、それでいーだろって事だよ。もうメイクして来るな」

「……」

メイクという鎧なしでは対等に話したり接する事が出来ないと思っていたのに、彼はそんなのやめろと言って……いや、命令している。これは……。


「なっ……なんで泣くんだよ!」

「宮地のせいじゃん」

「早く泣き止め。昼飯おごってやるから」

「マジで?」

「今日は麺類半額デーだからな」

「せこっ!」

「うるせーな!轢くぞ!」

「無免許の癖に!ばーか!」

「馬鹿って言った奴が馬鹿なんだからな!」

エナメルバッグから取り出したスポーツタオルをなまえに投げつける宮地、そんな2人のやり取りをクラスメイト達は遠巻きに眺め呆れていた。


「お前らさ、付き合ってねーの?」

「付き合ってない!」

「付き合ってねーよ!てかみょうじ、俺のタオルに鼻水付けるなハゲ。それみゆみゆのツアーグッズなんだからな」

「どうせ同じタオルを5枚は買ってんでしょ!ドルオタが!」

「マジ殺す」

既にクラス公認のカップルになっているのも知らずになまえと宮地は未だに揉め続けていた。


neta thx! なみのさん
title:ごめんねママ 20140414




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