部活終了後に着替えていると今日も練習をサボった灰崎がのそりと部室に入って来た。
「俺は立派なねずみ男になる」
「は?」
「灰崎、練習をサボった挙げ句に何を言い出すんだ?」
「もうバスケも女もどうだっていいんだよ。俺にはねずみ男になる夢があるからな」
「てかショーゴ君、その頬っぺたのヒゲなんなんスか?あ、NARUTO?」
「ちげーよ!ねずみ男のヒゲに決まってんだろうが」
「ねずみ男……。崎ちん、だからグレーのパーカー着てるの〜?」
「当たり前だ」
「赤司。灰崎は今日、練習をサボった癖に桃井の作ったスポドリを飲んだのだよ」
「ふむ……。以前も涼太が桃井のレモン蜂蜜漬けを食べておかしくなった事があったな」
「どうでもいいわ。なぁ、なんか食って帰らねぇか?」
「いいっスね!青峰っち」
「おい、お前ら。俺がなんでねずみ男になりたいか気になんねーのかよ」
「全力で気にならないのだよ」
「ねずみ男になるなら灰崎。バスケ部は辞めるんだな?退部届けは明日出しに来い。以上だ」
「いや……まぁ、辞めるけどよ。もうちょい俺の話を聞きたいとか、」
「全然気にならないからいいし。お腹減ったから早く行こうよ」
「待って下さい皆さん。昨日まで一緒にバスケをしていた元仲間っぽい人の話を聞きませんか?」
「テツヤ……っぽいとか言うな」
「テツが言うなら少しだけ聞いてやるか」
「5分で済ませるのだよ」
「黒子っちがそう言うなら」
「早く話してよ崎ちん」
腹ペコなキセキ達は若干苛立ちながらも灰崎の話を聞いてやる事にした。
「ねずみ男って凄くねーか?あの灰色の衣装の完成度、裸足というワイルドさ、個性が光る頬っぺたのヒゲと出っ歯。パーフェクトだろ?男の中の男だよ、パネぇよ」
「じゃ、帰るか」
「ちょ、待てよダイキ」
「灰崎君、ボク気になったんですけど。あんなに女の子と遊んでいたのに、ねずみ男なんかになったらもうモテませんよ?」
「もう適当に女とヤるのも飽きたしな……。構わねーよ」
「飽きる程ヤヤヤヤ、ヤるとか。ショーゴ君、最低っス!不潔っス!」
「バカかリョータぁ。ねずみ男は基本的に不潔に決まってんだろ」
「灰崎、おっぱいデカい女とかも構わねぇのかよ?」
「だからもう、おっぱいなんて見飽きたんだよ」
「非童貞のお言葉、とてもムカつきますね」
「あん?ああ、そうか。お前らキセキだのなんだの騒がれてるけど、みんなまだ童貞(笑)だったな」
灰崎の言葉にキセキ+黒子のおでこにはピキッと青筋が浮かんでいた。
「俺はまだエロ本で色々と勉強中なんだよ。主におっぱいの」
「んー。俺、彼女いるからいつでもヤれるし」
「中学生がそんな事をする必要はないのだよ。はしたない」
「まだ僕達は中2だ、焦る必要は、」
「そうっスよ!それに好きでもない女の子とそんな事しちゃ駄目っス!」
「……ふん。アツシ以外は負け犬の遠吠えじゃねーか」
イラァッ!!とみんなが殺意を抱いていると黒子が口を開いた。
「酷いです、灰崎君。自分は黄瀬君のファンや彼女面してる下半身のゆるい女の子達とえっちな事をしまくっておいて。2年生でバスケ部キャプテンになって文武両道、日本有数の財閥の御曹司である赤司君が童貞って……そんなに悪い事なんですか?」
「いや、悪いっていうか、」
「それにモデルでイケメンでモテモテで女遊びが盛んで絶倫でテクニシャンだと噂ばかりが先走ってまだまだ立派な童貞である黄瀬君はある意味、ボク達チェリーボーイズの希望の星なんです。バカにしないで下さい!」
黒子の歯に衣着せぬ発言に思い切り傷付いた赤司と黄瀬はガクリ、と床に膝をついていた。
「テツヤの発言は鋭利なハサミよりも胸に刺さるな」
「はいっス……。胸を抉られたっス」
「灰崎君、謝って下さい」
「いや、黒子っち。謝られても余計に傷心っていうか、」
「悪かったよ、童貞ボーイズ。こんなんじゃ俺、男らしいねずみ男になれねーな」
「いいんですよ灰崎君。君が立派なねずみ男になれるのを祈ってます。頑張って下さい」
「まずは崎ちん、ねずみ男の衣装を作ったらどう?」
「あと、ねずみ男ならば常に裸足なのだよ」
「口はいつも臭くしておけ。毎日ニンニクかじってろや」
「最終的には鳥取の鬼太郎ロードでねずみ男デビューして欲しいっス」
「仲間の妖怪が見つかるといいな。やはりコス撮影は合わせの方が盛り上がるらしいぞ、灰崎」
「みんな……。ありがとな。俺、立派なねずみ男になるぜ」
誰1人灰崎のねずみ男化を止めずに適当なアドバイスや無駄なエールを送った。
翌日、姉に手作りして貰ったねずみ男の衣装を着て裸足で意気揚々と登校した灰崎は教師に滅茶苦茶叱られたという。
灰崎君の口調が迷子。
20131219
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