「オレ……レモンになりたいっス」
「は?」
「黄瀬君…何を言ってるんですか?」
「いやだから。レモンになりたいって」
「意味が解らないのだよ」
「確かにレモンみたいな頭だけどさ〜」
「涼太、詳しく話してくれないか」
「赤司っち…ありがと。えと、レモンって凄くないっスか?ビタミンCたっぷりで匂いも良いしフレッシュだし…。オレ、レモンみたく皆を元気にしてあげたいなって」
そんな不思議な発言に練習後の体育館でキセキ達は静まり返っていた。
「そうか…。涼太は優しい子だな、よしよし」
「ちょ、赤司っち、照れるっス〜」
「おいこら赤司、黄瀬を甘やかすな」
「そうですよ。頭悪過ぎる発言ですよ」
「黒子っち…。レモンは嫌い?」
「嫌いではないですが…ここだけの話、桃井さんの作るダイナミックな蜂蜜レモン漬けがトラウマにはなってます」
「ああ…。あのゴロリなやつな」
「ゴロリが過ぎるよね〜」
「敦はパクパク食べていたじゃないか」
「腹減ってたから」
「……だが今日の蜂蜜レモン漬けは怪しい匂いがしていたのだよ。俺は遠慮したが」
「確かに蜂蜜でもレモンでもない匂いでしたね」
「俺もそう思って食わなかったし」
一軍は虹村が危険を察して口にしなかったはず……だが、遅れてきた黄瀬はしょんぼりと蜂蜜レモン漬けを三軍に持っていく桃井に「ビタミン補給させてもらうっス」なんて言って一つ食べていたらしい。
「まさか…さつきの作ったもんに当たっておかしくなったのか?」
「どんな効果ですか」
「黄瀬は利きミネラルウォーターが出来る程の奴だ。だから、」
「さっちんの蜂蜜レモン漬けらしきものの味がショックだったとか?」
「やべぇなおい」
「何がっスか?青峰っち、やっぱシチリア産レモンを目指すべきっスかね?リモーネ黄瀬、みたいな」
「あ?知らねぇよ」
「最終的にはコーラに浮かぶスライスレモンになるとか、ロマンチックっスね」
「いっそのこと東京湾に浮かんで下さい黄瀬君」
「赤司、どうすんだよこれ。うぜぇよ」
「オレ最近、方向性に悩んでたんスよ。顔オッケー、スポーツオッケー、勉強はまぁまぁ…がふっ!」
「頬っぺたに蚊がいたぞ。赤点三つの黄瀬涼太」
「蚊にしては激しいパンチだったっス…。んで、なんだっけ…。あ、そうそう。見た目に比べて恋愛経験値が少ないとか童貞捨てる為にゲス瀬になれとか、告白してきた女の子を断る度にパンツ貰えとか、みんなのアドバイスも適当でこの先30過ぎて童貞で妖精さんや魔法使いになっちゃったらどうしよう、みたいな?」
「それでレモンかよ」
「まぁ……レモンの皮なら簡単に剥けますよね」
「オレちゃんと剥けてるっス!」
「そうだっけ〜?」
「ちょっぴり恥ずかしがりやな息子っちなんスよ」
「仮性かよ」
「で、どうすれば立派でフレッシュなレモンになれるんスかね?」
「段々怖くなってきたのだよ」
「てかあの元主将にレモンになりたいとか言ったら絶対ボコられるし」
「はぁ……。レモン…。フレッシュなレモン。初キッスはレモンの味って本当なんスかね?」
「いや普通に味とかないからね黄瀬ちん」
「黄瀬、レモンになっちまったらキス出来ねぇぞ?」
「そうですよ黄瀬君。確実に30過ぎても童貞街道まっしぐらになっちゃいますよ」
「……立派なレモンになれるんなら、構わないっス」
「うわぁ…無駄にシャララな笑顔〜」
「やはり黄瀬君の様子がおかしいですね。いつも理想のファーストキスや初えっちのシチュで盛り上がる癖に」
「マジやべぇな」
「赤司なんとかするのだよ」
「赤司っちはオレがレモンになるのを応援してくれるっスよね?」
「涼太、今ググってみたんだが。一番ビタミンCが豊富なのはアセロラだ」
「え!?」
「お前はアセロラになる覚悟があるのか?」
「……無理っス。なんか……アセロラには可能性を感じないっていうか」
「そうか。僕はレモンでもアセロラでもない、そのままの涼太が好きだ」
「赤司っち……ありがと」
「なんですかこの展開は。気持ち悪いし腹立たしいです」
「レモンになるの諦めたら腹減ってきたっス。なんか食べてから帰らないっスか?」
「でも黄瀬ちん、元に戻ったみたい」
「取り敢えず一軍は桃井手作りのものは一切口にするな。わかったな?」
黄瀬レモン化は避けられたが後日うっかり桃井特製スポドリを飲んでしまった灰崎が「俺はねずみ男になるんだよ」と鳥取県の鬼太郎ロードに行こうとしたり「僕はファラオになる」と赤司が金粉を買おうとするのはまた別のお話。
レモンになりたいって言ってる子をテレビで見ました。すげー可愛い子だった。
そして桃井ちゃんごめん。
20131122
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