「一度、電車通学というものがしてみたい」

ファミレス帰りにそんな発言をした我らが主将は本気だったらしい。
そしてそんなボンボン気質丸出しな赤司が心配でメンバーは早朝、同じ駅に集まっていた。


「女性専用車両って何だい?…凄い人の数だね。電車に乗りきれるのかな」

「赤司君、電車来たから白線の内側に入って危ないよ」

切符を買う時点でテンション上がり気味な赤司以外は早朝ならではの低いテンションだ。
バスケ部の早朝練習に合わせた早めの時間帯でも相変わらずの混み具合。
駅員に押されて車内に押し込まれるやけにデカい四人と普通の三人。


「おい赤司、大丈夫か?」

「ん…、大輝、ありがとう」

ぎゅうぎゅうとリーマンやらOLやら学生に挟まれた赤司は苦しそうで、青峰は自分と緑間と紫原で囲ってやる。


「僕は…大丈夫…だ、から。桃井を…庇ってやって…くれないか?」

「へ?お前、真っ青じゃねぇか。さつきは満員電車に慣れてるから気にすんな」

「赤ちん、潰れちゃうし」

「あ、テツ君が居なくなった」

「きっとミスディレクションを使っているのだよ」

「いやいや満員電車で使う意味ないっしょ…って!黒子ーっち!!」

足元に見えたベイビーブルーの髪の毛に度肝を抜かれた黄瀬は、皆の足拭きマット化していた黒子を抱き起こしてやった。


「うわ…。黒子っちのブレザー足跡だらけっス」

「黄瀬君にクリーニング代を請求します」

「なんでオレ!?」

「シャララ顔が心底ムカつくからです」

毒を吐いた瞬間に電車は急ブレーキで停止する。


「うわっ!?」

信号機トラブルで一旦停止する、そんな車内アナウンスに乗客達からの溜め息が溢れていた。


「黄瀬君押さないで下さい内臓が出そうです」

「いや、あの、」

「ちょ、くっつかないで下さい気持ち悪い」

「ごめん黒子っち…。なんか痴漢が、」

「ボクに痴漢したら殺しますよ欲求不満ですか童貞モデル」

「違くてっ…!」

ゴニョゴニョと耳打ちされて黄瀬の背後を覗くと頬を紅潮させたリーマンらしきオッサンと、OLであろう綺麗なお姉さんが不自然に密着している。


「黄瀬君、綺麗なお姉さんが触ってくれてるみたいですよ。存分に興奮して構いません」

「そっスか。余計に股間が熱くなる…訳ないっスよ!痴漢は痴漢なんで!」

「キモいオッサンに触られるより、気分は良いじゃないですか」

「ひっ!?」

オレの息子っちが捕獲されたっス!
そんな涙声を聞いて視線を落とすと毛深い手が黄瀬の股間に伸びていた。残念、犯人はオッサンだったようだ。


「うわぁ…ガチで気持ち悪いのでボク、ミスディレってみます」

「黒子っち!見捨てないで!」

一瞬で姿を消した黒子に絶望して必死にズリズリと青峰に近寄る。


「青峰っち助けて欲しいっス!」

「おいこら童貞モデル。涙目の上目遣いはDカップ以上の女しか認めねぇぞ」

「だってだって!非常事態っスよ!オレの息子っちがぁ〜」

「おい赤司が白目を剥いているのだよ」

「仕方ないなー」

寝ていた紫原は赤司を抱き上げてやった。


「赤ちん生きてる?」

「……」

「脈はあるから生きてるみたい」

冷静に赤司の手首を掴む桃井の言葉に安心して、そのまま片手で抱っこしている紫原。


「次で降りるからね、赤司君」

「…ん、」

「赤ちん、このまま抱っこして降りてあげるから」

「すまないな、敦」

「かまわないし」

なんか良い雰囲気になってる隣では未だに痴漢に股間を弄ばれている黄瀬がとうとう泣き出していた。


「うわーん!青峰っちぃ〜助けてっ」

「自分で言え」

「怖くて無理っス」

「だーっ!もう面倒くせぇな!おい、こいつに触んな!腐ってもモデルだから事務所から慰謝料請求されるぞオッサン!」

ドスの効いた低音で青峰に睨み付けられたオッサンはやっと黄瀬の股間から手を離す。


「青峰っち男前!ありがとっス!」

「バカ、抱き着くな暑苦しい。鼻水付けるんじゃねぇ殺すぞ」

帝光中の最寄り駅に到着して皆が電車から降りると、涙を浮かべた初老の男が先にホームに立っていた。


「征十郎坊っちゃん、御無事でしたか!」

「爺や?」

「皆様、車内では坊っちゃんがお世話になりました」

ペコリとお辞儀をする爺やを見て「家から赤司を尾行してたんかい!てか、お前が守れ爺や!」と全員で盛大なツッコミをかましていた。


赤司君の坊っちゃんネタが好き過ぎる今日この頃。
20130525

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