「赤司君。ボク、寂しいんです」
「……え、」
練習後の部室にて2人きり、静寂に包まれていた中で黒子がポツリと囁いた。
1人で将棋を打っていた赤司はどう返してよいか解らずに振り返ると、ベビーブルーの瞳をうるるんと潤ませた黒子と視線が合う。
「ずっと一緒だと思っていたのに…ボクの身勝手な理由で離れてしまって」
一体何を言っているのか全く解らない。
仲の良い友達と仲違いしたのか?
まさか彼女がいたのか?
キャプテンとしては詳しく話を聞いた方が良いのだろうか。しかしプライベートなことには余り関わりたくなかった。
「あんなに可愛いがっていたのに…ボクって最低ですね」
え、なんだなんだ。まさか犬か猫を拾って「マンションじゃ飼えません。捨ててきなさい」とか親に言われて泣く泣く捨てに言ったのか?
「一緒に寝たりご飯をあげたり散歩したり。想い出ばかりが蘇って悲しいんです」
「…そうか」
我ながら当たり障りのない返答をしながら、やはりペットっぽいなと見当をつける。
「もう、ダイキ君とはやり直せないんでしょうか」
「……えっ!?」
今、ダイキって言ったか?いや確かに言った。
帝光中バスケ部の光と影がガチホモだったというのか?てか一緒に寝るとかサラッと言うな。
全く気付かなかった…。赤司は動揺してカタカタと小刻みに足を震わせた。
ただの友達相手に「やり直せない」なんて使うだろうか。しかし今日の練習だって普段通りに2人は相変わらずの良いコンビネーションを見せていた。
「しかもダイキ君と別れて直ぐにリョータ君と一緒にいるなんて。ボクは酷い男でしょうか」
「……は、」
三角関係?
確かに黄瀬は黒子に懐いている。スキンシップも激しいし一部の女子の間で2人がそういう関係だったら美味しいかもなんて妙な噂があったりする。
黄瀬は細マッチョだがしかし、やはりガチホモが過ぎるだろう。
「もうボク、自分で自分が解りません」
僕もお前とガチホモがガチで解らない。どんだけハードな中学生活を送っているんだ、けしからん。
どうアドバイスをすれば良いかなんて更にハードルが高い。
「赤司君、お願いがあります」
スッと立ち上がった黒子にきゅ、と手を握られて身体が固まった。
上目遣いで見られてドキリと心臓が跳ねてしまい、必死に脳内で般若心経を詠み上げる。煩悩よ去れ。
「…赤司君。黒子セイジュウロウになってくれますか?」
まままま、まさかのプロポーズ!
てかダイキとリョータは何処に行ったんだ。
爺やに電話してアドバイスして欲しいが、手を握られたままではそれは出来ない。
誰か助けてくれないか。
そんな弱気なことを考えるなんて普段なら有り得ないが、このイレギュラー過ぎるシチュエーションから逃れられるならば助けて欲しい。
「…ダメですか?」
きゅるるんっ、と大きな瞳を揺らす黒子は真っ直ぐに赤司を見つめている。
女ならまだしも何故に男に迫られなければならないのかと焦り出していた。
「赤司ー、戻ったぜー」
「赤司っちの好きなハーゲンダッツが無くて、三軒コンビニ巡りしちゃったっス」
じゃんけんで負けてアイスの買い出しに行っていた2人が戻ると、部室内の怪しい雰囲気が一気に払拭されていた。
「黄瀬が童貞だからエロ本立ち読みして、更に遅くなっちまった」
「ちょ、それは青峰っちでしょ!」
「うるせーよ童貞モデル」
「童貞はお互い様っス!」
ああ、こんなにアホ達を頼もしいと思ったことは初めてだ。むしろ愛おしい。
「お帰り。大輝、涼太」
「なんで2人は手を繋いでるんスか?」
「あれか、ガチホモか?」
それはお前達だろうとツッコミたいが、このメンツでは黒子を巡って争い出すかも知れないと今更気付く。
「いや、これは」
「赤司君にお願いをしていたんです」
「おい、テツヤ。それは今言うべきでは」
「牧場物語で飼っていた牛のダイキ君を売って、更に羊のリョータ君がウザくなってきたので売ってから、鶏にセイジュウロウって名付けて良いかって」
「おいこらテツ。牧場物語の家畜にオレと黄瀬の名前付けてたのかよ」
「てかオレ、ゲーム内でもそんな扱い?」
「テツヤ…ゲームの話だったのかい?」
「はい。牧場物語面白いですよ、赤司君」
散々赤司様を振り回しておいてゲームオチって何やねん。てか僕の名前を鶏ごときに付けるなハゲ。
言いたいことは色々あったが赤司が勝手に勘違いしたこともあり、ただただ脱力してしまう。
「ボク、ソーダ味が食べたいです」
嬉しそうにゴリゴリ君をカプリとかじる黒子を見て赤司はポツリと呟いていた。
「テツヤ……恐ろしい子!」
黒子君って育成シュミレーションゲームが好きそうですよね。そして動揺する赤司様が書きたかっただけ。
20130103
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