「あ、風呂が沸いたみたいっス」
週末に黄瀬が一人暮らしをするマンションへお泊まりにやってきた、なんだか寂しい青峰と黒子。
「なんで二人とも着いてくるんスか?」
バスタブに片足を乗せてお湯をザブザブとかき混ぜる黄瀬を見ながらある妙案が浮かぶ。
(青峰君、この黄瀬君の背中は「押してくれ」と言ってますね)
(間違いねーなテツ、期待に応えてやるか?)
せーの、と二人揃ってゲシッ!容赦のないキックを食らわせれば、黄瀬は呆気なくバスタブへ落下していた。
「熱っ熱っ、熱い!何するんスか?」
ずぶ濡れでバスタブから這い上がる金髪の素晴らしいリアクションに二人は惜しみ無い拍手を贈る。
「やっぱお前のリアクション、いいわ」
「腐ってもイケメンなので間抜けな表情にギャップがあって、ちびっ子にも人気が出そうです」
「何言ってんスか?取り敢えず謝って欲しいんスけど」
着替えてまだ髪が濡れたままの黄瀬を連れてリビングに戻ると二人はある計画を話し始めた。
「黄瀬君、これからはモデルだけでは厳しい芸能界を生き抜くことは出来ません」
「今はモデルもバラエティーやドラマに進出する時代だしな」
「あー、オレ、櫻井君みたくニュースキャスターやってみた…あだだだだっ!」
「どの面下げてニュースキャスターですか?図々しい。ゼーローは黄瀬君の偏差値ですよ」
「ひどっ!じゃあ、お天気お兄さんとか…いだだだだだっ!」
「誰がお天気お兄さんだ?天気予報は綺麗なお姉さんだけに許された聖域だっつうの」
「ちょ、禿げるっスよ!」
「とにかくボクと青峰君で黄瀬君をプロデュースしてあげます」
「頼んでないし。大体オレ、モデル以外にやる気は…いーだーいーっ!」
「プロデュースされるよな?黄瀬」
「是非お願いしたいっス」
涙目でちょこんとソファーに座るが、嫌な予感だけがぐるぐると脳裏を過る。
「黄瀬君のリアクションの良さと間抜けさ、これを生かせるのはズバリお笑い芸人です」
「はぁ…?オレ、お笑いの才能なんて、」
「お前の為にさっき川で捕まえたザリガニを貸してやる、ほらよ」
パシッ!と黄瀬の鼻先をザリガニはハサミで挟むとブラブラぶら下がった。
「いだい、いだだだだだっ!取って取って!」
「最高のリアクションです、黄瀬君」
グッと親指を押し出す黒子の真顔が異様に腹立たしい。
「なんでよりによって汚れ芸人なんスか?!オレ本業はモデルっスよ?」
「次はボクお手製の鼻フックをお願いします」
「スルー?!ちょ、その鎖、オレのペンダントじゃないスか?って、ひぃーっ!いだだっ!」
「ぶははっ、モデルとは思えねー顔になってんぞ」
「青峰君、もっと上から引っ張って下さい」
「ほらよ」
「ぎゃああああーっ!?」
鬼畜な友人達により黄瀬君はその後も散々、汚れ芸人になる為の訓練をされました。
20121028
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