部活帰りのマジバで黄瀬と青峰と黒子は何時も通りのくだらない話で盛り上がっていた。
ドリンクの氷を噛み砕きながらまた何か飲み物買ってくるか、てか黄瀬おごれや、いやっス!と揉めていると店内に綺麗なお姉さんが入って来る。
「お、綺麗なチャンねえじゃねぇか。パイオツでけぇなおい」
「派手な方ですね」
「目力がハンパないっス」
三人の向かいの席に座り丈の短いワンピースを気にせずに足を組む姿に息を飲む。
「パンツ見えそうだな」
「むしろ見せたいのではないでしょうか」
「派手過ぎてオレは無理」
「自意識過剰だろうがチャラモデル。あっちもお前なんか気にしてねぇよ」
「ボクは色っぽいお姉さんは嫌いではありません」
「俺だって色っぽい綺麗なお姉さんにエロいことして欲しいっつうの」
「青峰君、ボクはそこまで言ってません。けど、否定はしません」
「…こっち見てるっスよ」
確かにチラチラとこちらを気にしているのは明らかで、意識しまくりちょい緊張してしまう中学生三人組(全員童貞)
「おい黄瀬、声かけてこいや」
「なんでナンパ!?」
「何か飲み物どうですか、みたいに自然な感じで行って下さい」
「お前どうせ枕営業してモデルで稼いでんだろ。汚れた金は惜しまず使え」
「そんなんしてないっスよ!」
「黄瀬君、札束でお姉さんの頬っぺた叩いて口説いて下さい」
「オレ、東M○Xじゃないっス!」
「バカ、声がデカいぞ枕営業モデル」
「だからしてないっス!」
ついつい声を荒げる黄瀬の頭を容赦なく青峰が殴ると、それを見ていたお姉さんはクスリと笑みを零していた。
「…笑うと可愛いっスね」
「きっとお化粧落としたら、もっと可愛いです間違いないです」
「んだよ黄瀬。あっさりお姉さんに興味持ってんじゃねぇかよ。このどスケベモデル」
「まぁスケベなのは否定しないっスけど。彼氏いるんスかね?」
「左手に指輪は見えませんが」
「黒子っちマジモード!?目敏い!」
「早く黄瀬ナンパしてこいや」
「…無理。オレ、ナンパしたことないっス」
「フン…。何時も逆ナンばっかで女には飽き飽きしてるんスよ。とでも自慢したいんですか。腐れ枕営業童貞モデル」
「童貞なんだから枕営業なんかしてる訳ねーし!」
「枕営業は相手が女性とは限らないじゃないですか」
「黄瀬…お前、初めてが男とかマジひくぞ?」
「してないっスよ!オレは清い身体っス!」
涙目で訴えていると正面のお姉さんは肩肘をテーブルについて、こちらをじっと眺めていた。
「あ、めっちゃオレ見てる」
「バカ、俺に決まってんだろ」
「いいえ。ボクを見てました」
オレっス!俺だ!ボクです。そんな醜い争いをする間もお姉さんは三人をガン見している。三人の中の誰かがタイプなのだろうか。
帝光中バスケ部でスタメン+シックスマンである彼等はイケメン、ワイルド、可愛いということで実はかなりモテるのだが、相手が綺麗なお姉さんとなれば無駄に熱くなってしまうのはオスの性かも知れない。
「こうなったら直接、お姉さんに聞いてみるっス」
「いいですよ。ハッキリさせましょう」
「誰が選ばれても恨みっこなしだからな。あと一応4Pは可能か聞いてみろ」
「そんな激裏はこのへっぽこサイトにはナッシングですよ青峰君」
「で、誰が行くんスか?」
やっぱジャンケンだろうと手を突き出した瞬間にお姉さんは立ち上がり笑顔で手を振ってきた。
「うわ、ヤバい可愛いっス!」
「あ、こっちに来ますよ」
「行く手間が省けたな」
ドキドキわくわくして待っていると何故かお姉さんは三人の居るテーブルを通り過ぎて行く。
「あれ?」
マジバに入って来たスーツ姿の男性に嬉しそうに抱きつくお姉さんを見ながら三人は白目を剥いていた。
「オレ、モデル辞めたくなったっス…」
「俺、キセキ辞める」
「ボク、影のままでいいです」
ペタリと額に張り付くウエッティな髪、眼鏡が頬に食い込む程に肥えた身体。なんかベタなオタクっぽい男への敗北感はハンパなく、中学生達に大きな傷を刻んだという。
実際は彼氏ではなくキャバ嬢の同伴かつ営業だったのだが、中学生の三人はそんな大人の事情を知るはずもなかった。
こんなアホな三人組が可愛いくて仕方ない。
20130715
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