モデルって凄いな、大変なんだな。
着替える度にメイクもヘアも何度も変えられて、カメラマンからは多種多様な要求。
俳優や女優みたいな演技に近くて、自分には今更無理だと肩を落としていると、緋川がやけに良い笑顔で次の衣装を手にしていた。


「アンジュちゃーん、これ可愛いでしょ?」

この衣装を探しに行った時には今日ドタキャンしたモデルをイメージしていたのだ。
まさか自分がこれを着る羽目に陥るとは……。
だからアンジュって誰?
逃走しようとしたが勿論阻まれて、着替えると嫌々手を引っ張られてスタジオに戻れば一瞬静まり返り、その後にはどよめきが起こる。


「アンジュちゃん、お願い。お兄ちゃんって呼んで?」

「ナベさんキモいロリコン滅びろ」

「だってあんまり可愛いからぁー」

一応スタジオ内ではなまえではなくアンジュ(仮)と呼ぶ指示が出されていて、それを面白がるスタッフに腹が立っていた。


「どう?黄瀬君。こんなアンジュちゃんは」

「すげー可愛いけど、なんかエロっ」

口元を手で覆って照れている黄瀬を見て、お前もロリコンか禿げろ、と心中で毒づきながら近付く。
金髪を前髪ぱっつん、そしてツインテールにしてフリフリのリボン過多な真っ白なビスチェに、フリッフリフリルのカボチャみたいなふんわりしたショーパンにフリル付きのニーハイ姿を鏡で見た時は死にたくなった。
いや、ゴスロリはファッションとしては可愛いと思うが着たいとは思えない……というかキャラに合わない。
垂れ目を強調したアイメイクで唇は赤いグロスを塗りロリータ彼女は完成して、プロのメイクのお陰でえらい幼い印象になっていた。
下手したら黄瀬よりも年下に見えるかも知れない。


「……涼太お兄ちゃん、優しくしてね?」

「っ!」

ふざけてそんな台詞を言ったら黄瀬は一気に赤くなってしまい、一時撮影が中断されるハプニングが起きていた。
本当にあいつロリコンじゃねーのかと疑惑を抱いて待機していると、数分後に戻って来たので早速撮影が始まる。


「涼太お兄ちゃん、ロリコンだったんだー。きもっ」

「違っ……!なまえが可愛いから、」

「……似合わないでしょ?」

「いや…………。似合ってる、けど、下半身にきてヤバいっス」

「やっぱロリコンじゃん!」

「違うってば!」

「涼太お兄ちゃん、寒いからカーディガン貸して」

「……はいっス。て、エロっ!」

黄瀬から借りた白のカーディガンがデカ過ぎて下には何も着ていないようで、妙なエロさを助長していた。
2人の会話内容は解らないのに雰囲気的におませなロリータ彼女に戸惑う、メロメロな彼氏みたいな写真が次々と撮られてゆく。
やっと最後のショットだという頃にはなまえは開き直り、早く終わらせて帰りたいと願うばかりだ。


「うゎ、一番なまえっぽいっスね」

「うん、私もそう思う」

最後の小悪魔彼女の衣装はアメリカ国旗をイメージしたカラーリングのカットソーにダメージデニムのショーパンで、髪は緩くアップで纏めてメイクは全体的にヌーディーで猫目がポイントだ。
実は一番のポイントは2人がペアの下着を付けている事だったりする。
胸元の開いたカットソーから見せても可愛いくて、黄瀬もスウェットパンツを腰ばきしてチラリとボクサーパンツのロゴ部分を覗かせていた。


「最後のショットがベッドの上とか、なんなんスかね」

「うわー、ふかふかー」

「ちょ、なまえ、谷間見えてる!」

「水着みたいだから、いーじゃん」

「だめ!」

端から見ればキャッキャッ!ウフフ!みたいな戯れる様子は本当にカップルのようで、もはやカメラマンは何の指示も出さない。


「オレ以外に見せちゃだめ」

「はいはい」

うるさいなーと雑にあしらって、えい、とロイヤルブルーのTシャツの裾を捲ってやると綺麗に筋肉の付いた背中から腰骨までが晒されて、スタジオ内に感嘆の声が漏れていた。


「こら。んもー、お仕置きしちゃお」

「え。や、だ!」

コテン、と簡単に押し倒されてズイッと顔が降りて来て慌てると、鼻先にキスをされた瞬間にシャッター音が聞こえて冷や汗が出る。


「キスはだめでしょ」

「だってしたくなったんスもん」

「も、だめ、」

スルリと身体を抜こうとしたら腕を掴まれて体勢が崩れ、黄瀬に抱き寄せられてベッドから落ちずに済んだが何故か馬乗りになってしまった。


「なまえ、なんかやらしー」

「うるさい、ロリコン野郎」

手首にしていた赤のシュシュで黄瀬の前髪を縛ってやると普段は見えないおでこが丸見えで、でもやっぱりカッコいいというか……大人びてセクシーで、お臍の下辺りがきゅん、と疼いていた。


「黄瀬君、アンジュちゃん!」

同時に呼ばれた先を見るとシャッターを切られ、カメラマンは親指を立ててニコニコと笑っている。


「なまえ、」

黄瀬が上半身を起こすと後ろに倒れそうになり、肩にしがみつくと互いに身体が密着して、ふわりと彼の匂いが鼻を掠めて幸せな安堵感に包まれていた。


「……涼太の匂い、好き」

「オレもなまえの匂い好きー」

ぐりぐりと肩に頭を擦り付けられてサラサラの金髪がくすぐったい。
ベッドに座る黄瀬の腿になまえが跨がり抱き合うシルエットがスタッフ側から見るといけない事をしているみたいで、でも写真として最高に良いものだと思えて誰も止めないし、ぶっちゃけ興奮しているようだ。


「撮影中もイチャイチャ出来るんなら、なまえがモデルでもいいかも」

「いや、もうやんないから」

「最初はなんか……浮気してる気分だったけど、なまえと一緒に撮ってもらえんの、すげー嬉しい。この号は記念に何冊か買う!」

「こんな撮影は涼太としかしたくないよ。だからまぁ、ある意味記念だね」

「……なまえ。もうオレをどうしたいの?可愛い過ぎる!」

「ちょ、だめ、」

テンションだだ上がりの黄瀬が暴走してなまえのおでこや頬っぺたにキスを降らす度に、シャッター音が鳴り続けている。


「あん……、やっ、」

耳たぶにキスをされて思わず吐息混じりの声を漏らすと、スタジオ内の男性スタッフがゴクリと生唾を呑み込み、それに気付いた黄瀬はなまえを隠すように抱き締めていた。


「そんなえっちな声、みんなに聞かせちゃだめっス!」

「だって涼太が、」

あ、ヤバい。唇にキスされる。
焦って反らした顔を固定されてジタバタと抵抗していると緋川の声がスタジオ内に響く。


「はい、お2人さんストップ!ノブさん、もうオッケーでしょ?」

「え、あ、うん。うわ、もうこんな時間。みんな、お疲れー。黄瀬君とアンジュちゃんもお疲れ様でしたー」

時間を大幅にオーバーする程に2人のイチャイチャぶりを撮影していた事に気付き、直ぐに皆片付け準備に入っていた。


「なまえ、帰ったらもっとイチャイチャしよ?」

「え。今日の撮影だけで私、お腹いっぱいなんだけど」

「オレはまだまだ物足りないんスよ!」

「うるさいロリコンモデル」

「だーかーらー、なまえがあれを着るから興奮するだけで……。ね、あの衣装買い取ってあげるから着てくれる?」

「お前が着てろ変態」

「変態で良いから着て下さい!」

「いやですけど!」

そんなくだらないやり取りをしながら帰ったのだが、発売されたembrasse-moiの表紙はおでこ丸出しで仰向けの黄瀬と、そこに跨がるなまえの2人のカメラ目線のショットで、久々に初版完売して渡辺からまたモデルやってよと笑顔で頼まれていた。
秘密めいた新人モデルのアンジュへの問い合わせも殺到して、なまえはとても複雑な気分だった。

20140109




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