そうね、あなたになら全部をあげる 慣れない運転に緊張しっぱなしだった花音はサイドブレーキを引いてやっと一息ついていた。気付けば車は何処かの教会らしき白い建物の裏で、結婚式があったのか鐘の音が聞こえてくる。 「花音さん、大丈夫?」 「うん……なんとか。今更だけど涼太君、なんでタキシード着ているの?」 「あー。今日撮影あって、んでその後にブランドとの契約があって時間なかったから、そのまま来ちゃった。偶然だったけど、今日にピッタリかなと思って。花音さんも白のワンピースだし、新郎新婦みたいっスね」 「……」 「これで2回目っスね、花音さんを迎えに来たの。オレまだ肝心の事を言ってないし、フラれたらメチャクチャかっこ悪いんだけど、でも、言わせてくれる?」 「うん」 「オレにとって花音さんて初恋の人なんスよ」 「え……、」 「オレの初めての恋心を奪われちゃったってこと。それで再会して本気で花音さんに惚れちゃった。本当に好き。だから、オレに花音さんの全部を奪わせて欲しい」 「……本当に?私を?」 「うん、好き」 「でも、」 涼太君には彼女とかセフレとか沢山いるんじゃ……、とゴニョゴニョ呟く姿を見て黄瀬は苦笑していた。 「オレ、特定の彼女いたことないし。それにセフレじゃもう無理みたいで」 「なにが?」 「花音さんにしか興奮しないみたいで、前にセフレのとこに行った時も勃たな……」 「も、もう、その話はいいから!」 「じゃあ、信じてくれる?本気だって」 「……うん。あの、ね。私も涼太君が好き。先生に失恋して間もないのに尻軽だよね。でもね、実家に軟禁されてた時も今日も、涼太君が迎えに来てくれないかって考えてた」 黄瀬が来てくれないかと願う間も頭に浮かぶのは彼の色んな表情で、もう会えないと思うだけで悲しくて泣きそうになっていたのだ。 「……すげー嬉しい。こんな格好で迎えに来てフラれたらマジで立ち直れないっスよ。諦めないで良かった。黒子っちと火神っちには感謝しないと」 あの2人に背中を押されなければ、こうやって告白する事すら出来なかったかも知れない。 「オレ、推薦で大学行くの決まって、モデルも続ける事にした。だから……花音さん、オレと結婚して下さい」 「っ!」 助手席から伸ばされた大きな手を呆然と眺めていたが、不安そうに自分を見つめる琥珀色の瞳さえも愛しく感じていた。 「私なんかで……いいの?」 「花音さんじゃなきゃ、イヤ。ね、返事は?」 「はい。宜しくお願いします」 プロポーズの返事ってこんなので良いのかと疑問に思ったが、黄瀬は満面の笑みを浮かべているのでオッケーらしい。 「誓いのキスをしてもいいっスか?」 「え?今、ここで?」 「……ダメ?」 「ダメっていうか、あの、私」 キスしたことないし、人目が気になるし、と言い訳している間に顎を掬われ黄瀬の綺麗な顔が近付き焦っていた。 「花音さん、オレと一緒に幸せになろう?」 「……うん、」 ふわりと柔らかな感触が唇に触れて、これがキスかと実感する前に温もりは離れてゆく。 「やべ。キスだけで興奮しちゃった」 「な、何を言って、」 「今までずっと我慢してきたんスよ?まぁ、取り敢えずオレ達のスイートホームへ戻ろっか?」 「……まさか、また私が?」 「オレ、無免許だし。はい、花音さん、頑張って!」 「もうやだ……無理!」 「マンションに着いたら、もっと気持ちいいキスしてあげるから」 「それよりタクシーで帰りたい」 「ちょ、ダーリンのご褒美キスをスルーしないで!それにこの車、また氷室さんに借りたから返さないといけないし」 甘い雰囲気の後には自分の運転で黄瀬のマンションまで帰るという極めてハードなミッションが待ち受けていた。黄瀬に励まされる中、花音は泣きそうになりながらハンドルを握るしかなかった。 20140419 |