ハートを揺るがすナイトメア


本気で好きな子を大切にしたくて他の女を抱くのは一体正しいことなのか。きっと間違っているが、そうするしかなかったと己に言い訳しながら部屋の鍵を開けていた。


「……涼太君?」

「花音さん、もう起きてたの?」

「だって心配で」

自分の貞操の危機を心配した方が良いとは言えずにブーツを脱いでいると背後からすんすん、と匂いを嗅ぐ音が聞こえる。


「あの……、もしかして、」

甘ったるい移り香は明らかに女のもので、そっちには疎い彼女にも黄瀬のお泊まりの意味が解ったらしい。


「友達って……女の人の部屋に泊まったの?」

「友達は友達でもセフレ」

「っ!まだ高校生なのに、」

「そんなん、みーんなヤるコトはヤってるし。真面目な花音さんと違って」

「そうじゃなくて、涼太君のは彼女とかじゃないんでしょ?好きとかじゃなくて、ただの身体だけの、」

非難めいた口調に苛立ち聞き流してリビングへ向かうと花音は後から着いて来る。


「私はそういうのイヤ。止めた方がいいよ」

「……うるせー」

「え?」

聞き取れないのか近付いてきた花音の腕を黄瀬は掴むと乱暴にソファーに押し倒していた。


「あのさ、花音さんが言ったんでしょ?えっちなコトは他の女としろって」

「そ、それは、」

確かに同居初日に言ったが、あの時と今では全然、抱いている気持ちが違う。黄瀬が見も知らぬ女とそういう行為をしたのが酷くショックで、泣きたい位に悲しくて堪らない。


「男は好きじゃなくてもヤれるんスよ。まぁ、女も同じか。セフレ希望者は沢山いるんで」

「……」

別世界の話を聞いているようで花音は黙って見上げていた。


「花音さんが好きだった男も、さっさと告白してれば一回位、抱いてくれたんじゃ、」

最後まで言う前に思い切りビンタを頬に食らって、呆気に取られる。


「先生はそんなことしない。侮辱しないで」

真っ直ぐな澄んだ瞳に囚われて身体が凍りついたみたいで黄瀬は動けず、彼女が失恋した相手を庇うという事に胸が痛んで泣きそうになっていた。
強張っていた頬を撫でられてビクリと震えると心配そうな花音の表情が目に入る。


「暴力はダメだったよね。でも私、謝らないから」

「あー、いいっスよ。オレも言い過ぎたし。でもすげー痛かった」

「冷やした方が良いよね」

起き上がらせると花音は冷蔵庫から冷えピタを持ってきて頬っぺたに貼ってくれた。


「っ、」

「あ、ごめんなさい」

「……あやまんないで」

自分の欲望を抑えきれそうになくてセフレの部屋に行ったのに、発散しようとすれば何故か勃たなくて1人ファミレスで時間を潰して過ごしたのだ。
高校生にしてインポかと焦ったものの、帰宅して花音の顔を見た途端に反応するのだから始末が悪い。ただ好きなだけなのに、悪戯に傷付けるような発言や行動はなんだか駄々っ子のようで恥ずかしかった。


「涼太君にはバスケがあるんだから、変なコトに、その……、体力使わないで」

「そうっスね。暫くは清く正しい高校生やるっスわ」

「……本当に?」

「なんなんスか、その疑いの目は」

「だって、」

「花音さんがヤらせてくれたら全て解決す、痛い痛いっ!」

「えっちなDVD見る位なら許してあげようと思ったのに」

「え、そんなんより花音さんのエロ動画の方が、って、痛いっ!すみまっせん!」

朝っぱらからくだらないやり取りをしながら気まずい空気もいつの間にか消えて、一緒に朝食を作る頃には普段通りになっていた。


20140130


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