多分あなたしか知らない楽園に連れて行って欲しいの


「氷室さん、すみません」

「いいんだよ、暇だったし。それに黄瀬君のラプンツェルを見たいしね」

「ボクも黄瀬君を柄にもなく必死にさせるジュリエットが気になります」

「お前ら、何言ってんだ?黄瀬は外人と付き合ってんのか?」

「まだ付き合ってないし。で、……何で火神っちもいるんスか?」

「失礼な奴だな!タツヤに車を出して欲しいって黒子に頼まれたからだろうが!てかお前のせいだろ!」

「あー、すんません。ジョークっスよ」

あの後に黒子に泣きつくと「折り返し電話します」と言われ黒子→火神経由で、東京の大学に進学した氷室のお陰で何とか花音の実家まで来ることは出来た。


「で、黄瀬君。ボク達は何をすればいいんですか?」

「実はノープランなんスよ」

「……相変わらずバカですね」

「取り敢えずは見張りに1人、侵入するのに2人はいるね。俺は直ぐに逃走出来るように車で待機しているよ」

「氷室さん、凄いっスね」

「タツヤ、なんか手慣れてて怖ぇよ」

「じゃあボクは見張りで」

「火神っち、行くっスよ」

「なんで俺が……」

ぶつぶつ言っている火神を引っ張り外に出ると氷室は外壁に車を寄せた。車の上から呆気なく庭に侵入出来て、そっと家に近付く。


「こんなでっけぇ家なのにセ○ムしてねぇみたいだな」

「火神っち、ここに来て」

「ん……、おいこら、何すんだよ」

「オレを肩に乗っけて欲しいっス。組体操みたく」

「……今度飯おごれよ」

「成功したら幾らでも。失敗したら2人揃って補導だけど」

「いやいや逮捕だろ!ったく、なんで男を肩車しなきゃなんねぇんだよ」

突っ込みをスルーしてヨイショと逞しい肩に乗ると火神はゆっくりと立ち、黄瀬も壁に手を添えて慎重に立ち上がる。2階の南側が花音の部屋だと姉から聞いていたが、間違っていたら不味いことになるだろう。


「黄瀬、登れそうか?」

「ん……。もうちょいでベランダに届きそう」

「お、いいもんがある。少し左に行くぞ」

「うわっ、高っ!」

エアコンの室外機を見つけた火神が躊躇いなくそこに乗ると、ぐんと高さが増してベランダの手摺に手が届いた。


「火神っち、ありがと。ヤバそうだったら先に逃げていいから」

「んなことしねぇよ。早く行ってやれ」

「はいっス」

明らかに空き巣みたいな姿でよじ登りベランダに降りると部屋には明かりが灯っていて、カーテンの隙間から覗き見れば花音がベッドに座っている。
一緒に帰ってくれるのかと一瞬不安が過ったが、ここまで来ては引き下がれない。
コンコン、と軽く窓をノックしてみたらビクッと肩を揺らしてこちらに歩いた来た。


「涼太君?」

「花音さん、オレと一緒に帰ろう」

まさか黄瀬が迎えに来てくれるなんて、簡単に決心が揺らいでしまう。その大きな手を取る資格があるとは思えないのに、泣きそうな程に嬉しくて堪らない。躊躇していると黄瀬は泣きそうで不安気な顔に無理に笑みを浮かべていた。
ガラス越しに手を合わせて暫し見つめ合っていたが直に触れたくてサッシを開けた瞬間、部屋のドアも開き義母が現れて3人は固まったが黄瀬は花音の腕を引いていた。


「花音さん、待ちなさい!」

必死の形相の義母にビビりながらも花音はベランダに出て素早くサッシを締めて物干し竿をつっかえ棒にする。
開かない事に腹を立てた義母はきっと表に回るつもりだろうか、部屋を出て行った。
花音をおんぶして再び庭に降り立ち裸足の彼女をお姫様抱っこして、待機していた火神と共に走り、侵入した時とは反対に堂々と正面の門から飛び出す。
玄関から出て来た義母の罵詈雑言を聞き流して氷室の車に乗ると滑らかに走り出したが、角を曲がるまで追いかけて来た彼女の執念には全員がドン引きしていた。


「あの、涼太君。凄いビックリしたけど……来てくれてありがとう」

「……惚れそうっスか?」

「それは、その、」

あんな風に王子様やヒーローみたいに救出に来てくれて、ときめかない訳がない。
でもまだ気持ちの整理がついていないし、どう答えていいのか解らなかった。


「まぁ、いいっスけど。ご褒美位は欲しいなー、みたいな?」

「え」

「お姫様からのキスのご褒美、欲しいっス」

「そのご褒美は今日のメンバー全員に適用されるのではないでしょうか?」

じっと助手席から見つめる黒子のクリクリとした瞳に2人はビクリ!と同時に反応する。


「そうだね、どうやらお姫様はまだ王子様選び中のようだし。俺も立候補したいな」

「氷室さん、シャレになんないスよ!」

「なぁ、俺腹減ったんだけど」

「お姫様奪還祝いにご飯行きましょうか、黄瀬君の奢りで」

「なんなんスか!ちょっとは空気読んで!」

「あの……皆さん、涼太君のお友達?すみませんでした、ご迷惑をかけてしまって。お陰で無事に脱出出来ました。ありがとうございます」

「構わないよ。お姫様は何が食べたいのかな?」

「え。何言ってんスか」

「そうですね、せっかくですから花音さんの食べたいもので」

「食えれば何でもいいよ」

「皆には感謝してるけど。ここは2人きりになる流れっスよ!」

「黄瀬、うるせぇ」

ぎゃんぎゃん黄瀬が騒ぐ中で、車はみんなで仲良くディナーコースへと進んでいた。


20140220



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