愛想笑いなんかじゃ君のハートは掴めない


同居してから数週間たつが花音の黄瀬への態度は余り変わらない。
男女が一緒に暮らせば相手を意識したり、何らかの変化があるのではないだろうか。何しろ相手はこの黄瀬涼太なのだから。
決して自惚れではない。別に100人中100人が自分を好きになるとは断言しないが、ぶっちゃけ8割は振り向かせる自信はある。

事実、黄瀬が無意識にした事を好意的に受け止めてしまい、惚れられるのは有りがちで。
それはただのクラスメイトや彼氏持ち、キオスクやコンビニのお姉さんまで幅広かった。
バスケットが最優先の黄瀬にとっては彼女なんてのは不要な存在で、でも性欲はそれなりな訳でセフレはいる。
しかし同じ学校の女には絶対に手を出さないと決めていた。
黄瀬涼太に抱かれたという事はかなりのステイタスらしく、言いふらされて中学時代に散々嫌な目に遇ったせいだ。


「藤白せーんせ」

「黄瀬君……。なんか笑顔が気持ち悪いよ」

「ひどっ!キセリョスマイルなのに」

「キセリョスマイルって何。学校の黄瀬君て、何か違うんだよね表情が。バスケ部の時以外は」

ギクリ、と一瞬黄瀬はたじろぐが、花音は本能的に見抜いている。黄瀬が他人に一線を引いて、愛想笑いという仮面を被っている事を。
一緒に住んでいるから違いが解りやすいのかも知れないが、気付かれた事が不思議と嬉しい。


「そっスね。……ベッドの中でも違う顔するけど。見たい?」

「……ばか。そんなの見たくない」

「遠慮しなくていいのに」

教え方が丁寧で授業後も生徒達に囲まれて質問責めな花音と話す機会が少なくて、やっと話せたと思えば意地悪な事や彼女の苦手な下ネタになってしまう。
学校では他の生徒と全く同じ扱いで、それが寂しいようなムカつくような複雑な気持ちになっていた。


「藤白先生って初恋はいつ?」

「え……。なに、急に」

「ガールズトークだよ。ね、いつ?」

割合、生徒と年齢が近い花音に親近感があるのか、女子生徒はそんな話題を振ってくる。
放課後、教室に忘れ物を取りに来た黄瀬は偶然そんな場面に遭遇していた。


「私は幼稚園の時で、カズ君って子」

「……早いね」

「あたしは小学3年の時で、同級生の隼人君」

「藤白先生は?」

「え、私、は」

生真面目な花音は恥ずかしそうに視線をさ迷わせたいたが、生徒達から急かされてとうとう口を開く。


「私……。高校1年の時なの。遅いよね?」

「うーん、どうだろう?」

「別に遅くないんじゃない?あたし中2だったし」

「ね、どんな人?」

「え。えっと……年上でクマさんみたいにほんわかした優しい人、だよ」

「クマさん?ぽっちゃりしてるの?」

「んー……ちょっぴりね。それで頭が良くて何時も勉強を教えてくれたの」

「へー、そうなんだ!」

「クマさんとか可愛いね」

「年上かぁ」

女子生徒達は盛り上がり、恋ばなへと話題は移り黄瀬は完全に教室に入るタイミングを失っていた。
が、それよりも花音の語った内容が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
年上、ややぽっちゃり、頭が良い。
それらが自分に全く当てはまらない事に何故かショックを受けていた。


20131213


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