イエローシャワー・サンシャインアワー


穏やかに進行してゆくお見合いの場を花音は他人事に感じていた。心は空っぽで、でも頭は黄瀬の事でいっぱいでアンバランスなこの心理状態には戸惑ってしまう。それに心の片隅では期待しているのだ。また黄瀬が迎えに来てくれるのではと。お見合い相手の葉山は優しくニコニコと花音に話してきて、適当に相槌を打ちながら初恋の教師を思い出し少し似てるかもなんて思っていた。

途中で義母の携帯に父から着信が入り、これからホテルに向かうと言ってきたらしい。とうとう父も諦めて、このお見合いに顔を出すのだと思うと益々気持ちが沈んでゆく。目の前の男と結婚して家庭を築くなんて何だか嘘みたいで現実味がなかった。

葉山を遠慮がちに見ながらつい黄瀬と比較してしまい、今更ながらちゃんと好きだと伝えてくれば良かったと後悔している。お見合い中に席を外すなんて許されるはずもないが、次第に落ち着かなくなってきた。せめて電話で、なんて考えていると廊下から揉めるような話し声が聞こえてきた後にノックの音、そしてドアが開いて誰かが部屋に入って来た。


「お見合い中に失礼します」

「な、何しに来たのよ、貴方!」

隣の義母が椅子を倒す勢いで立ち上がり、睨み付ける長身の男は白のタキシードに身を包んだ黄瀬で、花音は一瞬息が止まっていた。彼の存在感やオーラで室内が太陽に照らされたように明るくなった錯覚に陥る。まさかの黄瀬の登場に義母が怒鳴りつけようとした途端に背後から父が現れていた。


「葉山さん、お見合いの場で大変申し訳ありません。ですが、このお話は無かった事にして頂きたい」

「でも……この話が無くなれば藤白屋は」

「黄瀬君のお陰で何とかなりそうなんです」

イギリスの人気ブランドFrockhartのデザイナーからのラブコールでイメージモデルが黄瀬、日本初進出店舗が藤白屋に決まり、かなりの話題性と集客率が見込まれる事を父は説明してくれた。本当は新宿の人気デパートが初進出店舗の有力候補だったが黄瀬がイメージモデルになる条件が藤白屋への出店だったとも。デザイナーが黄瀬に惚れ込んでいるのでそんな我が儘があっさり通ったらしい。


「まぁ、オレのばあちゃんも藤白屋さんのファンだったし」

なんて言ってはいるが明らかに藤白屋と花音を救う為のものだろう。ブランドとの契約やら何やらでこんな時間になったと父が言っている間も黄瀬から目が離せなかった。


「葉山さん、すみません。花音さんはオレの初恋の人で、凄く大切な人なんです。だから今のオレに出来る事で自由にしてあげたい。それでは、失礼しました」

男の葉山でさえタキシード姿の黄瀬に見惚れていて、正直な言葉にも納得したのか小さく頷いている。手を引かれて立ち上がると葉山に「すみません」と頭を下げてから花音は黄瀬と一緒に部屋を出て行た。


「あの、黄瀬君」

「路駐してるんで話は後で。あ、ヒールじゃ走り難いっスね。気を付けて」

歩く速度を落とされて見上げた黄瀬は日本人離れしたスタイルのせいか、タキシードが恐ろしく似合っていてドキドキしながらエントランスまで並んで歩いて行った。路駐していた車の運転席に座らせれておかしいと思っていれぱ「花音さん、免許あるよね?よろしく」と黄瀬に言われて真っ青になる。


「私、ペーパーだよ?無理無理!」

「大丈夫、ナビあるし、隣にはオレがいるし。ほら、エンジンかけて」

「怖いよー」

「高速は乗らないから。はい、出発ー!」

「ひぃぃーっ!!」

「その顔、ヤバいっスよ?」

教習所の路面試験以来の運転に震えながらハンドルを握り締める涙目の花音を黄瀬は楽し気に見つめていた。


20140410


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