(き……きついっ)

お気に入りのライムグリーンのスキニーを久しぶりにはいてみて璃乙は青ざめつつも、目を逸らさずに現実を見ようと恐る恐る視線を下ろせば、お腹のお肉がスキニーにぽよんと乗っていた。がびーん。


「なんか璃乙、ちょっとぷにぷに感が増した?」

「……そうですよねー。モデルの黄瀬さんには解りますよねー。てか、気付いてて私に言わなかったんでしょ!?早く言ってよばか!」

「そりゃ……まぁ、気付くっスよね。2人の時は何時もくっついてるし、勿論裸も見てる訳だし」

「普通に答えるな」

黄瀬のせいというか、おかげで禁煙に成功したのが太った一番の原因だとは自分でも薄々感じてはいた。しかし最近までチュニックやワンピースにレギンスのコーデがマイブームの為にこの惨状に気付くのが遅れたようだ。


「彼女が豚になってんの気付いたなら、早く教えてよ」

「豚って……。元々、璃乙は細いし今で普通でしょ。それに璃乙って本当に幸せそうに美味しそうに食べるから言い辛くて」

スイーツよりも主食もしくは酒のつまみが好きで、黄瀬と付き合うようになり外食は減ったものの、煙草を吸う時間を食べる方へ向けている訳で。何よりも食べる事が大好きな訳で。


「ダイエットしよっかな」

「なんか璃乙遠い目してて怖い!だから別に太っては、」

「二十歳過ぎるとお肉付くとこが違うんだもん!今までサイズ変わった事なかったのに」

ここで璃乙は気付いた。目の前の自分に甘い彼氏の作る美味しいご飯の数々、ネットや雑誌でチェックしたらしい璃乙好みのイタリアンだの、ラーメン屋だのに一緒に出掛ける日々を。


「なんで涼太は太んないのー!ムカつくっ」

「そりゃバスケやってるし、酒飲めないし……。何より自制してるし」

「ムカつき過ぎてムカつく」

「意味わかんねーし」

元々太り難い体質のようだしバスケ部の練習はかなりハードらしいので、当然と言えば当然な事に理不尽とは思いながらも悔しくて歯軋りしてしまう。


「あのさ。マジで璃乙は太ってなんかない。女の子って体重とか気にし過ぎっスよ」

「前は気にしてなかったし」

そんなに体重の変動がなかったのもあるが、今は自分の体型を意地でもキープしていたかった。黄瀬の隣を歩いていて「あんなデブが彼女?」「センス悪い女」等と周りから言われて彼の株が下がってしまうのが怖かった。と言うか周囲の妬みや嫌味なんかなに負ける気はないし、黄瀬の前では可愛い女の子でいたいのが一番の理由だったりする。あらやだ乙女、みたいな。


「女の子って年齢でもないけどさ……やっぱ気にするもんなんだよ」

「……」

「あーなんか私らしくない!今言ったの忘れて……って、なんで涼太、涙ぐんでんの?」

「璃乙っ」

「え……、ぐるじいっ」

ぎゅうぎゅうと抱き締められて息苦しさに白目を剥きそうになっていれば、黄瀬は璃乙の肩に顔を埋めてボソボソと何か呟いている。


「なに?聞こえないし」

「璃乙がそんな風に思ってたのがいじらしくて……可愛い過ぎて。なんかもう嬉しくて死にそう」

いじらしいとか生まれて初めて言われて恥ずかしくてこちらが死にそうだ。


「大体、涼太が私を甘やかすからこんな事に、」

照れ隠しでポカリと黄瀬の頭を小突いても彼のご機嫌が悪くなる事はない様子。


「じゃあ冷蔵庫の缶ビールは全部捨てる?あ、緋川さんにあげよっか」

「やだ!止めて!」

「そう言うと思った。だからオレがダイエットに協力してあげる」

「え。毎朝ジョギングとかなら無理だから」

「璃乙、ダイエットする気ないっしょ」

「いや、ある!えと……炭水化物減らすもん」

「ご飯もパスタも大好きな癖に。あのさ、ジョギング30分……下手したらそれ以上にカロリー消費出来る方法があるんスよ」

「マジか」

そう言えば前にembrasse-moiの彼氏とのえっち特集でそんな記事があったな、と思い出した頃には時既に遅し。お願いします黄瀬さん!と土下座した後にはベッドで何時も以上に激しく愛されました、まる



title:白猫と珈琲 20141102


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