「りょうたー、ただいまー」

「お帰りなさい、っス、璃乙」

夜半過ぎに緋川に送られてきた璃乙は酔っ払っていて、上機嫌で黄瀬に抱き着いている。「お熱い夜を過ごせそうね、黄瀬君」なんて意味深な言葉を含み笑いと共に残して緋川は去って行った。


「ちゅー!」

「うわ……。酒くさっ、」

ただいまのキスをされればアルコール臭が半端ないとはいえ、璃乙からのキスを拒むなんて出来るはずもなく、そして彼女が帰宅した時から目が離せない物があった。


「璃乙、それって」

「んー?」

「頭の、」

「あー。これは、緋川さんがくれたの」

ディズニーランド土産にとくれたそれは髪に簡単に装着出来る2つの白い猫耳で、確かに黄色い熊耳バージョンを見た事があった。酔っていなけれぱこんなに甘えてこないし、普段なら多分着けてくれないだろう猫耳はとても璃乙に似合っていて可愛いし、なんかエロくてたまらない。ソファーに座る黄瀬に抱っこされて見上げてくる瞳はちょっと潤んでいて、目が合うと「りょうたー」と頬擦りしてくる姿に高校生男子が反応しない訳がない……のだがこれは不味い、下半身に落ち着けと言い聞かせてみた。


「りょうた、キスして」

「しょうがないっスね」

なんて言いながらも半開きの唇にキスを落とすとアルコールの為かいつもより熱くて、舌を絡め合う度にこちらまで体温が上がりそうな錯覚に陥り、この流れで何時もベッドに運んでコトに及ぶのだが今夜は違っていた。


「ね、りょうた…。したい」

「…今日はしないっスよ」

「え、なんで」

「初めて抱いた夜、ぶっちゃけ気持ち良かったけど、相手がオレだと認識されてなくて悲しかった。だから酔った璃乙は抱かないって決めてんの」

そんな話を真剣にされて璃乙はぽかんと見上げて、眉の下がった悲しそうな表情を見ると申し訳ない気持ちになっていた。


「あの時は……ごめん。でも、今はちゃんとりょうただって解ってるし、そんなに酔ってないもん」

「酔っぱらいは皆、酔ってないっていうの」

「酔ってないっ!」

こうなれば実力行使!とのし掛かり股間に手を伸ばすと素早く止められた。


「だーめっスよ」

あぶねー…。と小さく呟く黄瀬を不満気に見つめるが彼が意外に頑固なのは知っているので、どう攻略しようかと頭を捻る。


「りょうた…、お願い……にゃん?」

「あーもう!そんな可愛い顔で、そんなん言うの反則!…とにかく今日はだめっス!」

「りょうた、私としたくないんだ」

今にも泣きそうな顔で「女は女優やでー」と内心企みつつ見つめると黄瀬は明らかに動揺していて、彼の両手を引き寄せて自分の頬を包みこませると、あざとく小首を傾げてみせた。


「んな訳ないっスよ。ぶっちゃけ毎日だって抱きたいくらいっスけど……。でも、今夜はダメ」

私はぶっちゃけ毎日は無理ですけど、と酔った脳内で突っ込みながらも、今はしたくて我慢出来そうになくて、大きな手を引っ張り人差し指を口に含むと黄瀬は慌てていた。いつもするようにチュパチュパと舐めたり吸ったりすれば指先でも感じるのか、切な気に吐く彼の吐息が璃乙のつむじにかかり益々興奮してしまう。


「ちょ、璃乙、それヤバい」

「あ、」

「本当に困った子猫ちゃんっスね」

素早く指先を抜かれて口寂しく感じていると璃乙の頭を撫でながら黄瀬は苦笑していて、作戦失敗かとガッカリしていた。


「キスならいっぱい、してあげるから」

「ん、」

口内を蠢く舌は気持ちいい処をねっとりと愛撫してきて、舌の裏を刺激されて思わず漏れる声も唾液と一緒に飲み下されて頭がくらくらしてくる。何度も腰砕けになりそうなキスをされてやっと唇が離れて酸素を吸い込んでいると優しく頬を撫でられて、逞しい胸元に頭を預けていた。


「りょうたのバカ」

「え。キスの後にそんな事言っちゃう?」

こんな気持ちいいキスをされてセックスはナシなんてあり得ないと拗ねていると、あやすように瞼や頬っぺたにキスが降ってくる。帰宅した時は直ぐに眠くなるだろうと思っていたのに完全に身体は火照ってしまい、大人しく寝れそうになかった。


「猫耳璃乙、すげー可愛い」

本当に嬉しそうにそんな事を言われても不完全燃焼の璃乙は不愉快で、猫耳なんて取ってやると思ったが面倒なのでほっておく。水が飲みたいとねだると素早く冷蔵庫から持ってきてくれたミネラルウォーターのボトルをじっと見つめた。


「りょうた、口移しで飲ませて?」

「え、」

「早くー」

固まっていた黄瀬のスウェットを引っ張ると仄かに頬を赤く染めているのを見て、にやりと口元が緩みペットボトルを口に含む時に見えた喉仏が淫らな気分を増長させていた。


「ん、っ、」

「はぁ……っ。本当に小悪魔っスね、璃乙は」

「もっと、りょうた」

「……っとに、もうっ、」

戸惑いながらも彼が璃乙のペースに乗せられているのが解り、再び冷たい水が喉を心地好く通過してゆくのを感じながら、頭の中で性的な戦いのゴングが遠くで鳴った気がしていた。


20140220


prev / next

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -