右肩がズシリと重い。
別に霊に憑かれた訳でも肩凝りでも無い。
重みの中にも時折首筋に感じる妙な感触は涼太の左耳のピアスだった。


「涼太、重い」

「……」

えい、と右肩を一瞬持ち上げても体格と体重差には敵わず、しかも黄瀬はムキになってがっちりと名前を両腕でホールドしてくる。
サラサラの金髪が気持ち良いなぁ、なんて呑気に考えていれば隣からは非難めいたじっとりした視線が投げられる。
その綺麗な切れ長の瞳をそんな使い方をしてはいけません。
そう言えばまた更に解りやすく拗ねるのが容易に想像出来て躊躇してしまう。

普段からスキンシップ大好きな黄瀬だが、この嫌な雰囲気の中では名前の息が詰まりそうだ。
喉が渇いたとローテーブルに放置していた、水滴だらけのペットボトルに手を伸ばすと素早く黄瀬に奪われる。


「あ、ちょっ!」

名前から片腕だけ離すと無言でミネラルウォーターを一気に飲み干した黄瀬は口を開いた。


「今は水なんかより、オレに言う事、あるでしょ?」

うわー、お子様!
と呆れながらも黄瀬の怒りは継続中の様子。
いや、怒りと言うよりは子供みたいに拗ねているだけだ。


「もう飲み会には行かないって、こないだ指切りげんまんしたよね?」

彼の言う飲み会とは所謂、合コンだ。
名前だって基本的に合コンは苦手だが、人数合わせで頼まれる場合がある。
別に浮気したいなんて下心や体力も無いし、涼太以上の彼氏なんて居ないに決まっていた。
だがしかし内緒で参加した合コンは冗談みたいにあっさりと発見されてしまった。
撮影の打ち上げで店に入って来たらしい黄瀬の驚愕、そしてみるみる不機嫌に変わる綺麗な顔。
あんな時でもイケメンはイケメンだったなと、名前は事件現場を回想した。


「オレ、すげー怒ってんだからね」

約束したばっかなのに、とブツブツ呟きながら更に続ける。


「あの時、オレに会わなかったらさ…。名前は変な男に、お持ち帰りされちゃったかもしれないんスよ?」

それを聞いて名前はふざけるなと、一気に怒りが込み上げていた。


「そんな簡単に私が他の男に着いてくと思ってんの?最低、お子様…、ばか!」

名前がぶちまけると琥珀色の瞳はきょとんと見開かれている。
そして直ぐに眉毛は八の字に下がり、唇を小刻みに震わせていた。


「そりゃあ、内緒で合コン行ったのはごめんなさいだけど…。私が好きなのは涼太だけですけど?」

「……名前」

鼻息荒く言いきる名前をじっと見つめながら右手を引っ張り、黄瀬は自分の頬に添えてスリスリと頬擦りをしている。
その表情は今にも泣きそうな、それでいて安堵した様な複雑なものだった。


「どうせオレ…、ばかだもん」

「自覚があって安心したよ」

「……名前マニアで、名前ばかだもん」

甘えられながらもマニアってなんだよ、ちょっとお前気持ち悪いなんて思う。


「でも…、オレも」

「何が?」

「オレも名前が好き、大好き」

真っ直ぐな視線に射抜かれて口元が緩みだしていた。


「名前から好きってあんまし言ってくれないから、すげー嬉しかったっス」

「そんなの、言わなくたって、」

わかるでしょ?と恥ずかしくて俯くとひょいと顎を掬われる。


「ちゃんと言って欲しい。それに…」

「なに?」

「もっとオレを愛して?」

小首を傾げてニコリと柔らかな笑みを浮かべられて、胸の辺りがきゅうっと締め付けられていた。
年下の彼氏めんどくせーとか思っていた自分を殴りたい。
何も言えずにただ小さく頷けば、黄瀬は握っていた名前の手の甲にキスを落とした。


「オレも目一杯、名前を愛してあげるから、ね?」

あ、ダメだ。
堕ちた。

心地好い諦めに支配されながらソファーに押し倒されて、黄瀬の首に腕を伸ばしていた。


きみがだいすき!様に提出
20121001
20140101修正

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