Precious カバネ&コノエ
「俺も一緒に行くッス! 連れて行ってください!」
リーベルたちの後を追いアークに向かうと告げたカバネに、コノエはそう懇願した。
不死の体をもつとはいえ、敵はナーヴ教会だ。どんな危険が待っているかわからない場所にカバネを一人で行かせるわけにはいかないと思ったのだ。
そもそも主君を守るのは部下の使命である。コノエにはかつてカバネの右腕と称えられた自負もあった。
彼がなんと言おうと絶対についていく――そんな思いで告げたコノエの願いを、カバネは静かに却下した。
「いや。コノエはここに残ってくれ」
「カバネ様……!」
「コノエ」
咎めるでも窘めるでもなく、カバネはただ静かに名を呼んだ。
俺はもう王ではない。カバネ様と呼ぶのはやめてくれと彼が言ったのは、もう千年以上昔のことだ。
カバネがクオンを救おうとしたことでゴウトの国は滅び、かろうじて生き残った民もやがてついえた。国と民を失った王はもはや王ではない。カバネはそう言ったが、それでもコノエにとって、彼は心から敬愛する王のままだった。
「コノエ」
黙りこむコノエに、カバネはもう一度名を呼んだ。コノエが顔をあげると、彼は静寂をたたえたその瞳でまっすぐこちらを見つめる。
「万が一、俺に何かあったらクオンを守れるのはお前だけだ。託せるのはお前しかいない。……頼む」
それは王としての命令ではなく、友としての願いだということをコノエはすぐに理解した。
千年以上共に生きてきたのだ。彼の想いは、言葉にされずともわかってしまう。
「……ずるいッス」
思わず、本音が口に出た。
「ずるいッスよ、カバネさん。そんな言い方されたら、俺が嫌だなんて言えなくなるのわかってて言ってるんだから」
そう言って苦笑いすると、カバネの端正な眉が少しだけ歪んだ。
「すまない。俺はお前を、いつも我儘に付き合わせているな」
「…………」
何を言ってるんスか。そんなの、今更でしょ。
胸のうちで呟いて、コノエはゆるゆると息を吐いた。
思えばカバネに頼み事をされるのは何百年ぶりのことだ。かけがえの無い友の願いを断るなんて男じゃない。
「わかりました。安心して任せてください! クオンさんは、命に代えても俺が守ってみせるッス!」
拳をかたく握りしめる。
本当は一緒に行きたい。この自分の気持ちだって、カバネには伝わっているだろう。
「だからカバネさん、絶対に戻ってきてくださいね」
コノエの言葉にカバネは小さく笑う。それはかつて英雄だったとき彼が見せた、自信に溢れた顔と同じだった。
薄暗い地底にいても、彼の瞳には眩い光が宿っている。
「大丈夫だ。俺は死なない」
それはある意味自嘲とも言える言葉だったが、コノエはああ、と思った。
――やっぱりあなたは俺の王だ。
初めて会ったときから、今でもずっと。