《Hard Candy 〜Extra》
#Extra_樅の木:01




「まさか、本気で惚れたとか言わねぇよな」


 なんて、柄の悪いツレ達に茶化されて、これみよがしに舌を打ってやった。


 悪ぃかよ。

 俺が女に本気になっちゃ悪ぃのかよ。


「久々ヒットだもんなぁ。ミオちゃん? だっけ?」


 …悪ぃ、かもな。


「なぁ、いつんなったらマワしてくれんの?」

「…さぁな」


 誰がやるかよ。バーカ。





 こうなってみて、ようやく自分がしてきたことがどんなことなのか、気付く。

 今までは、流されるまま、目の前にいる女に、手当たり次第に手を出していた。

 セックス、ってより、アトラクション感覚だった。

 気持ちよけりゃいい、みたいな。

 誰かの名ばかりの彼女だったり、誰かがナンパした女だったり、向こうからノコノコやってくるスキモノだったり。

 知り合った女を皆で共有するのが、暗黙の了解になったのはいつからだったか。

 ひとりの女に固執する自分が想像できなくて、どうでもいいや、なんて思っていたのに。


 ――柾木、女できたろ


 別に隠れてコソコソ逢ってた訳じゃねぇし、そりゃ見られもするだろうけど。


 ――楽しみだな、アレ


 ああ…。

 俺がしてたことって、こういうことか。


 ――ああいうタイプ久しぶりじゃね? ここんとこヤリマンばっかだったしなぁ


 イエスもノーもねぇんだ。

 俺が澪を手離さない限り、いつかはこいつらに澪を――?

 冗談じゃねぇ。

 そんなつもりで澪に声かけた訳じゃねぇんだよ。



 澪は“そういう”タイプじゃない。

 デートもキスも初めてだと、真っ赤な顔で俯いた。


 やっぱ、ダメなんかな。

 因果応報。

 これまでしてきたことの報いだろうな。

 いくら俺が澪を大事にしたいと思っていても、許されねぇんだ。


 ――自分の女だけ出し惜しみとか、すんなよなぁ


 こいつらにとっては、澪も他の女と変わりない。

 傷付ける前に手放すか、傷付けても縛り付けるか。


 俺が、傷付けるか。



 選択肢は少ない。

 ようやく見つけたのに。

 俺も少しはマトモになれるかと思ったのに。


 澪がいれば、それでよかったのに。








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