《Hard Candy 〜Extra》
#Extra_初めて:11




「ナンパ男が柾木先輩ぃぃ!?」


 由佳が手にしていた長いスプーンから、パフェの生クリームがポタリと落ちる。


「由佳、声おっきい」


 しーっ、と、人差し指を口元に宛てて、由佳の腕を掴む。


「や、だって、えぇぇ」

「えぇぇ、は、こっちの台詞。由佳、柾木くんのこと知ってるの?」


 テーブルに零れた生クリームを拭きながら、柾木先輩、と当たり前に言った由佳を横目で見る。


「同じ中学の先輩だし」


 有名だったからねー、って。


「んー、でも、柾木先輩かぁ」

「何よ」


 あんまりいい顔をしない由佳に、あたしの顔色が曇る。


「ん? うーん…。あんまり、気ぃ悪くしないで聞いてほしいんだけどぉ…」


 柾木先輩も、かどうかは判んないし、あくまでも噂でしかないけど。いい話、聞かないからさ、先輩ら。仲間うちで女の子輪姦したりとか。知り合って最短どれくらいでヤれるか競ってたりとか。ほら、北高って特進科はまだマシなほうだけど普通科は――


「まっ、柾木くんは特進科だもん」


 気を悪くしないで、と、あらかじめ言われていても、やっぱり気分のいい話ではない。

 そんな友達がいるなんて、あたしは知らないし、知らなくていいことなのかもしれない。

 柾木くんが、言わないなら、知らなくていい。


「…ごめん」


 しょぼん、という言葉がぴったりな顔をして、由佳がパフェを突く手を止めた。


「あたしこそ…、ごめ、」


 由佳は心配してくれただけなのに。


「ちゃんと、大事に、されてるんでしょ?」

「…してくれてると思う」

「もし、先輩もそういうことしてるんなら、とっくに澪もそうなってるよ。そうじゃないんだから、先輩はそういうことしない人だ、って思いたいけど…」


 スプーンが離れて、カタリ、と小さな音をたてた。


「うん」


 言いたいことは、判る。


「こんな言い方、変だけど、気をつけてね。もし、ってこともあるし」


 できれば、遊ばれる前に別れて。


 小さく小さく、由佳が呟く。

 その言葉に、あたしは返事をすることができなくて。



 由佳の言った意味をもっと考えていたなら、もしかしたらこんな風に傷付くことも、なかったかもしれない。








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