《恋愛初心者》
#03_これからのふたり:02



 塾が終わって、一時間程すると三国くんのバイトが終わる時間になる。

 バイトと塾が重なる日は、こうやって連絡をくれて、あたしを家まで送ってくれる。

 最初は断ったのだけど『俺より江坂といる時間が長いのは納得いかねぇ』と、押し切られてしまった。


 ――あいつ、いい奴だよ


 江坂くんは、ことあるごとにそう言う。

 本当はノートを写すなんてこじつけで。

 三国くんのバイトが終わるまであたしがひとりにならないように、一緒に時間を潰してくれているのではないか、と、最近思う。


 あたしといると、江坂くんは結衣子を思い出したりしないだろうか。

 それが、気掛かりだった。



「来たよ、番犬が」


 暗くなって、街灯で照らされた道を歩いてくる三国くんを見つけるのは、江坂くんが先。

 いつものファストフード。

 いつもの席。

 三国くんが来てもすぐに判るように、いつも窓際の、この場所。

 ポケットに片手を突っ込んだまま、コツコツ、と、外から窓を叩く三国くんは、寒さで頬が赤くなっていた。

 中に行くよ、って言いたいらしいジェスチャーを合図に、江坂くんは自分のノートを片付け始める。


「じゃ、俺帰るわ。あとは若いふたりでごゆっくり〜」


 いつもの台詞。

 江坂くんが荷物を片付け終わる頃、ホットコーヒーとホット烏龍茶を手にした三国くんが現れる。


「よぅ、お疲れ」

「おー。じゃあな」


 いつもの光景。

 江坂くんが片手を上げて帰って行くと、目の前の席は、三国くんの姿に代わる。

 湯気のある烏龍茶を差し出されて、あたしがそれを受け取って、三国くんがコーヒーを一口飲んで、


「っはぁ〜」


 と、ため息を漏らす。

 いつもの時間。


「すげぇ寒い、今日。雪んなるかもな」


 他愛のない話をして、クスクスと笑い合って。

 端から見たら、あたしと三国くんは、恋人同士に見えるのだろうか。




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