《恋愛初心者》
#02_幸福になれる彼女:11



「さっみぃ…」


 夜になると格段に冷える。

 バイトが終わったことを堂島に知らせるメールを送信し、コートのポケットに両手を突っ込んだ。

 堂島は、待っていてくれるだろうか。

 それよりも、江坂とふたりっきりでいることの方が気がかりで。

 気持ちよりも身体が先に動いて、小走りになる。


 案の定、いつものファストフードの窓際の席で、堂島と江坂が笑い合っているのが見えた。

 チクショウ、楽しそうにしやがって。

 無愛想を飲み込みながら窓ガラスをコツコツと拳で叩くと、俺が近寄るのに気付いていた江坂が、ニヤニヤと堂島に声をかける。

 軽く頬を染めて顔を上げる堂島の目が俺を見つけると、遠慮がちに微笑む。

 ヤベぇ。可愛い…。

 マジすっかりやられてんな、俺。

 江坂すら憎いわ。


 小一時間程ファストフードで過ごして、店を出る。

 堂島の家まで、ここから徒歩で二十分。

 敢えて地下鉄には乗らない。

 一分一秒でも長く一緒にいたくて、ゆっくり歩いてしまうのに、堂島は何も言わない。

 そんなことすら嬉しくて。

 はぁぁ。
 俺、中坊みてぇ。


「…今度、さ、どっか、行かねぇ?」


 正しくには、今度、じゃなくて、日曜日、なんだけど。


「どっか、ってかさ、連れて行きてぇとこ、あるんだ」


 俺を知ってもらいたいから。

 いつもひとりで行くあの場所へ、堂島だから、連れて行きたい。


「どこ?」

「行くまで秘密。今週の日曜とか、どうよ?」


 うわ、急に緊張してきた。

 勢いだけで言ったけど、断られることまでは予測してなかった。

 頼む。

 行く、って、言ってくれ。


「…うん」


 うし!

 心の中で、グッと拳を握る。

 堀江には悪いけど、今の俺には堂島しか見えてねぇから。



 堀江に誘われたのと同じ日曜日にしたのは、堀江にすっぱり諦めてもらうつもりだった、っていうのも、少なからずある。

 だけど、計算高いこのやり方が、堂島を傷つけることになるなんて、思いもしなかった。








- 19 -



[*]prev | next[#]
book_top



bookmark
page total: 27


Copyright(c)2007-2014 Yu Usui
All Rights Reserved.