《はつこい》 #01_引き出し:02 その言葉の意味は、家でケースを開けてすぐに判明する。 曲順の書かれた紙と、もう一枚。 右上がりの癖のある字で、手紙が挟まっていた。 マメだなあ、倉田くん。 部活楽しかった、とか、一緒に演奏できてよかった、とか、当たり障りのない内容だったけれど。 ――よかったら、返事ください。 手紙の最後の一行が、あたしを混乱させた。 返事、って? 何を書けばいいのだろう。 そもそも何の返事なのか。 倉田くんは、あたしが彼に想いを寄せていることに、気付いていたはずで。 あたしはあたしで、彼が想いを寄せている人を知っていた。 なのに部のみんなは、あたしと倉田くんが付き合っているものと、勘違いしていて。 何故か、倉田くんはそれを一度も否定しなかった。 ずっと複雑な想いを抱えて、振り向いてはもらえないことを判っていながら。 同じ部活、ってことを利用して、あたしは倉田くんに一番近いポジションを、誰にも譲らなかった。 部活を引退してしまえば、なんのことはない、あたしと倉田くんの繋がりなんて、希薄なものだった。 話すことがほとんどなくなってしまい、同じクラスなのに目も合わないことも、稀ではなくなった。 その後、倉田くんに一番近いポジションには誰がいたのだろう。知りたくはないけれど、気にはかかる。 手紙は、ラブレターというには程遠く、どう解釈したらいいのか判らないまま、結局返事ができずに、卒業式を迎えた。 そして倉田くんとは、それっきりになっていた。 [*]prev | next[#] book_top |