《はつこい》 #03_恋の行方:02 今思えば。 俺にも、初恋、なんていう、甘酸っぱい経験がある訳で。 その相手が真由子だと、気付いたときには、もう遅かった。 そもそも、はっきりしなかった俺が悪いんだけど。 真由子と噂になったとき、自分の気持ちに気付いていたら。 遠回しな手紙じゃなくて、直接気持ちを伝えていれば。 百歩譲って、手紙の“返事”を催促していたら。 あの日『迎えに行くまで待ってろ』って、言えていれば。 虚しい“たられば”を、何度反芻しただろう。 そんなことしたって、時間が巻き戻る訳じゃあるまいし。 だいたい、こういうのは男のほうが引きずる、って、相場は決まってんだ。 でも、な。 やっぱ、考えちゃうだろ。 ――あたし、結婚するんだ なんて、零れそうな幸福全開の笑顔、見せられたりしたら、さ。 “たら”、何なんだ。 “れば”、どうだっていうんだ。 ひょっとしたら。 結婚の報告を“される”のではなく、“させて”いたかもしれない。 …なんて。 [*]prev | next[#] book_top |