《はつこい》 #03_恋の行方:01 もしも、なんて想像は、無意味だ、って判ってる。 でも、今なら判ることが、たくさんある。 倉田くんの手紙の意味。 自惚れじゃなくて、今だから判る。 あの頃、あたしたちは、幼な過ぎて、素直になれなくて、言いたいことも言えなくて。 もしも、あのとき。 あたしが倉田くんの手紙の意味に、気付いていたら。 気付いて、ちゃんと“返事”をしていたなら。 あたしの人生は、変わっていたかもしれない。 ――じゃあ、泊まってく? 遠回しだけどストレートな、倉田くんの誘いに、頷いていたとしたら。 あたしの初めての相手は、倉田くんだった。 それに、気付いていたら。 あたしの人生は、やっぱり変わっていたと思う。 初恋は実らない。 実らないから、いいのかもしれない。 実ってしまえば、いつか終わりがくる。 実らないから、終わりはこない。 想い出としていつまでも取っておける。 何度か投げられたボールを、あたしはことごとく受け取り損ねた。 それはつまり、あたしと倉田くんとは、そうなるべきではない、という、神様のお達しなんだと思う。 結局、あたしは倉田くんに、一度も気持ちを伝えていない。 手を繋いだことすら、ない。 唯一、あの寒い春の夜、微かにつむじに触れた手の平だけ。 あの日言っていたように、翌年倉田くんは本当に上京した。 電話をもらって、何度か食事に行って。 でも、やっぱりそれだけだった。 お互いに決まった相手がいなかったけれど、それ以上にもそれ以下にも、ならなかった。 物理的な距離が薄めた気持ちが、逢うたびに少し燻っても、口に出してはいけない、と、あたしたちの間には、暗黙の了解があった。 だからこうして、今でも逢える。 [*]prev | next[#] book_top |