《はつこい》 #02_自業自得:11 「俺さ、実は来年、東京行こうと思ってんだよね」 実は、なんて嘘。 今、決めた。 浪人する俺は、進路が決まっている訳ではない。 元々地元の大学に進むつもりだったけど、東京の大学に受かれば万々歳、そうでなくても、家は出るつもりだったし。 「向こうでもさ、ときどき飲みに行こうぜ」 そんくらいの約束は、してくれたっていいだろ。 ん、と、真由子の口角が遠慮気味に上がる。 あーもう、勘弁しろ。 俺に度胸があったら、お前、今頃俺にヤられてるぞ? もうすぐ、真由子の家が見える。 三年ぶりの再会も、そこでおしまい。 どちらともなく足が止まって向かい合うと、真由子は俯いてしまった。 少し、震えてんのは、寒さのせい? まさか泣いてるなんてことは…ねぇか。 泣く理由がねぇもんな。 「それまでに、もう少し、オトナんなっとけよ?」 「失礼なっ」 髪をかきあげながら顔をあげる。 笑ってるのに、睫毛が濡れてて。 …おいおいおい、マジか。 変な期待すんだろ? 「…ま、そのままでもいいけどさ」 つーか、頼むからそのままでいてくれ。 変な男に引っ掛かんなよ? オトナになんか、ならなくていいから。 迎えに行くまで待ってろ。 ホントは、そう、言いたかった。 言って、抱き締めたかった。 だけど今の俺に、そんなこと言える器量はなくて。 「子守も悪くねぇかもな」 なんて、軽口を叩いてしまう自分を、ボコボコにしてやりたい。 またね、って笑う真由子の、泣きそうな顔を見てると、マジで手を出しそうで。 後ろ髪をめちゃめちゃ引かれながらも、俺は振り返らなかった。 いや、違うな。 振り返れなかったんだ。 [*]prev | next[#] book_top |