《シャンプー》
#01_兄貴代理:02




 店の奴らを帰して、甘くしたホットミルクを、弥生ちゃんの前に置く。


「どうした」


 葉月がいないときは、俺が兄貴代理。

 いつだってそうだった。


「彼氏とケンカ?」


 弥生ちゃんが首を振ると、髪が揺れる。

 やっぱ、これ切るのはダメだろ。


「ケンカじゃない」

「じゃあ、」

「だって!」


 う、と、言葉を詰まらせて、弥生ちゃんは手で顔を覆ってしまった。



 弥生ちゃんの彼氏、という奴は、俺も一度見たことがある。

 バリバリ仕事ができる爽やか営業マン、な風貌で、取引先なんかには好印象だろう。

 けれど、俺は気に入らなかった。

 仕事柄、いろんなタイプの人と接するせいなのか、人の裏表が何となく見えてしまう。

 彼女の兄貴の友達、である俺にも、そいつはソツのない挨拶をした。

 社会人、としては、合格だけど。

 俺の中の合格ラインは越えなかった。

 たかが、彼女の兄貴の友達、なんかにごちゃごちゃ言われたくないだろうけど、とにかく気に入らなかった。

 もっとも、葉月に至っては、初っ端から猛反対だったらしいが。



「ケンカじゃないなら、何? 髪切りたいなんて、よっぽどだろ」

「…う、わき、してた」


 あーあ。
 やっぱりな。


「だから葉月も反対したろ」


 ふぇぇ、と、子供みたいな泣き声をあげて、弥生ちゃんはポロポロと涙を零す。

 隣に座ったのは間違いだったかな。

 うっかり抱き締めてしまいそうになる。




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