《シャンプー》 #03_悪あがき:03 こんなことならもっと早く出ればよかったね、なんて言いながら、弥生は上機嫌でシートベルトを締める。 「どこ行くの?」 「この時季だしなぁ。紅葉の綺麗なところとか」 「京都!」 「途中で運転代わってくれんなら、京都でも奈良でも行ったっていいぞ?」 「…無理デス」 「弥生の運転で助手席なんて、俺が無理だわ」 クッ、と笑うと、口をヘの字にしてスネる。 小さい頃から、変わらない。 「海と山、どっち?」 「紅葉って山じゃないの?」 「そうとも限んねぇよ」 「んー…、じゃあ、海」 「かしこまりました、お姫様」 スネた顔が、すぐ笑う。 弥生はいつだって、俺の姫なのにな。 環八から第三京浜に乗ると、弥生はソワソワし始める。 「ね、お兄ちゃん、これ高速道路?」 インターチェンジを潜ったばかりなんだから、判りそうなものなのに。 「うん」 「だって、海、って。京都なら運転交代、って」 「…お前、よく免許取れたな」 高速に乗ったら遠くに行く、っていう考え方はあながち間違いじゃねぇけど。 「これ、第三京浜。京都なら東名だろ」 女は土地勘がない、とはよく言ったもので。 っつか、小学校の地理の問題だろうに。 「運転させようなんて、思ってねぇから安心しろ」 「ふふ」 だからお兄ちゃん好き。 そういう台詞をよー…。 簡単に言ってくれるなよ。 頼むから早く幸福になってくれ。 じゃねぇと、いつまで経っても気持ちの整理がつけらんねぇんだよ。 [*]prev | next[#] bookmark |