《シャンプー》
#03_悪あがき:01




 どうしたもんかな。

 いよいよ、アイツも気付いただろう。

 このまま認めるべきか。

 それとも最後の悪あがきをするべきか。


 どっちにしろ、結果は同じ。

 それなら――。








 しばらく弥生は沈んでいた。

 失恋、というには彼女には失礼にあたるかもしれないが、ひとつの恋が終わったのだから、それもまた、至極当然なのだけど。

 ただ、沈み方が、予想外だった。

 泣き明かす日々が数日続くことを想定していたが、そうでもなくて。

 ぼんやりと、憂いのある表情を、無防備に晒け出していた。


 あの最低男から、連絡はないという。

 さすがに、他所の女を孕ませておきながら弥生に食い下がってくるようなら、俺も黙っちゃいないところだったが、それも杞憂に終わった。




「お兄ちゃん」


 絵に描いたような、土曜の昼下がり。

 両親は、親戚の法要があると言って、朝早くから遠方に出てしまった。

 ブランチ代わりに、と、弥生が作ったフレンチトーストをつまみながら、垂れ流されているだけのテレビの画面を見つめていた。


「どうした」

「ね、お兄ちゃんが考える“いい男”って、どんな人?」

「――…っ、けほっ」


 コーヒーを吹き出すかと思った。

 あれからまだ、十日足らず。

 まさか弥生があの男以外の男の話題を持ち出すなんて、思いもしなかった。


「いい、男、だぁ?」


 動揺を悟られないよう、務めて冷静な声を出したつもりが、当の弥生はテレビを向いたために、俺の変化には気付いていない。


「よく言うでしょ。男が惚れる男が、いい男だ、って」




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