《シャンプー》
#02_オアシス:10




「いい男は身近にいる、って、判ったからもういいの」

「俺のことか」

「お兄ちゃんはお兄ちゃん、でしょ」

「つれないね、お前は」


 智くんが綺麗にブローしてくれた髪を、お兄ちゃんがくしゃくしゃにしてしまう。

 もう、と、抗議の声をあげると、お兄ちゃんは肩を竦めて、抱き締めていた腕を、そっと離した。


 そりゃね。

 お兄ちゃんも、いい男だよ。

 だって、あたしのお兄ちゃんだもん。

 過保護なくらい、あたしの心配ばっかりしてるけど。

 自慢のお兄ちゃんだもん。


 鏡を見ながらくしゃくしゃにされた髪を直していると、「その話はまた今度な」という智くんの声が聞こえてきた。


「何の話?」

「男同士の真剣勝負の話」

「またあたし仲間外れだ」


 お兄ちゃんと智くんは、はときどきこうだ。

 こんな雰囲気の話は、教えてもらえたためしがない。


「それよりも飯食い行こうぜ。走ってきたら腹減った」


 ネクタイを緩めて、コキコキを首を鳴らす。

 何かを隠してるときの、お兄ちゃんの癖。



 いいよ、あたしの心配して駆けつけてくれたんだし、聞かなかったことにしてあげる。

 でも、いつか、教えてね?


 あたしだって、お兄ちゃんのこと、いつも気にしてるんだから。








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