《Hot Chocolate》
#02_勘違い:06



「…これは俺にじゃないだろ。だから、」


 綿貫の手に、チョコとカードを握らせる。

 その指先は、受け取るのを拒否するかのように、一向に曲がらない。

 俺の手と、綿貫の指先が、かろうじてチョコとカードを支えていた。


「は、え? な…、にこれ…」

「本来の贈り主がいるんだろ。俺にじゃなくて、」

「先生にです」

「でも、このカード――」

「――あたしこんなの知らないもの!!」


 そして曲がらないまま、その手は綿貫の顔を覆った。

 綿貫の指先を失ったチョコとカードが、床に落ちる。

 チョコの箱は、落ちたところがへこんでしまった。


「先生、ひどい…!」

「いや、あのな、綿貫、」

「ひどいよ! 迷惑だったら捨ててください、ってあたし言ったのに!」

「待て、俺の話を、」

「見え透いた小細工してまで返そうなんて――」


 小細工?

 ちょっと、待て。

 話が違うぞ。


「――先生がこんな冷たい人だとは思わなかった!」

「や、綿貫、待て誤解が、」

「あたし先生がっ…、のに、こんな仕打ち…――っ!」


 ――開けてもくれないなんて残酷です。


 そう言い捨てて、綿貫は俯いたままチョコの箱だけを拾い、両手で握り締めた。

 それを力いっぱいゴミ箱に投げ付けると、大きく息を吐き、振り返りもせずに教科室を出て行った。


 力任せに扉がピシャリと閉められた音は、綿貫の心が閉ざされた音だろうか。


「…」


 突如おとずれた静寂すら、俺を責めているような気がする。

 床上で端をコーヒーに染めているカードより先に、俺はゴミ箱から白い箱を拾いあげた。



 やっちまった、って、こういうことを言うんだろうか。







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